映画と文学の表現の違いは
中島 僕からも質問していいですか? 島本さんの本を読むと、今まさに恋愛の真っ最中っていうぐらい、心の動きが鮮やかに描かれているのに驚きます。それって、恋愛したときにメモったりしているんですか? こんなふうに心が動いたとか。
島本 それはありますね。すごく好きな人に会った翌朝に、もう、景色や会話から感情までバーッと書いておく。いつ使うかわからないけれど、気持ちを全部書き出すというのはやっていました。それって、今でいうと、インスタに写真を上げるのに近くて、「すごいきれいな景色を見たから誰かに伝えたい!」とか、「きれいなものを見たから書きとめておかなきゃ」っていう感じかも。最初から小説に使うために……という意識ではないんです。
中島 記録しておきたいという感じですか。
島本 この大事なものをとっておきたいっていう感じです。
中島 僕は大学が文芸学科というところで、小説を書く授業もあったんですけれど、本当に何も出てこなくて向いてないなと思いました(笑)。だから言葉で表現できるって、すごいなって憧れます。
島本 私は俳優さんってすごい仕事だと思います。物語の中に、体ひとつでポンって入っていくという感覚って、どんな感覚なんでしょう。
中島 「物語の中に」とおっしゃいましたけれど、僕の場合、でき上がったときに、物語の一部だと認識する感じで、やっているときは、とにかく目の前の相手とコミュニケーションするということに終始しています。芝居は人間の体を通してやるものなので、そこで感じ合ったものが出るっていうのは、文学とは違う表現だなと思います。
島本 そうか。普段、一人で書いていると、そこにすでに物語があるように見てしまうんですけど、目の前の相手とコミュニケーションしながらつくるというのは、すごく印象的な言葉でした。
中島 そこがおもしろいんですよね。映画って偶発性がすごくあるんです。いろんな人が寄ってたかってつくる芸術なので、思いもよらないことがいっぱい起きるんですよ。暑かったり、寒かったりっていう物理的な変化もあるし。だから現場に行くときは、起こり得る一切の可能性を捨てないようにしています。準備は十分にしていきますが現場ではそれを手放して、その瞬間に起きることに身を委ねるよう心がけています。その点、小説は全然違いますよね。小説は編集の方とのやり取りとかもあると思いますけど、基本、0から100まで自分がつくる世界だから、あらゆるコントロールができるわけですよね。作家さんが映画を撮るってなったら、全然思うようにいかないから、めちゃくちゃストレスがかかりそう(笑)。
島本 本当ですね。私自身、集団で何かをつくることは苦手意識があったのですが、じつは今ちょうど理系の研究者の先生と二人で合作小説をつくっていて、初めて人と一緒にものをつくって、おもしろいと思っているところです。
中島 それは楽しそうですね。どんなふうにつくるんですか。
島本 ストーリーはざっくりと決めた上で、画面共有して、リアルタイムで交互にセリフを書いていくんです。私が主人公を、研究者の先生はアンドロイド役を、と担当を決めているんですが、たまに意見がかみ合わなくなるときがあって、そうすると物語のキャラクターも閉じてくるんですね。登場人物二人もぎくしゃくして、どんどん仲が悪くなってくる(笑)。「あっ、しまった、まずい、まずい」と思って、話し合うと、開かれて、また言葉が全然変わってくるんです。そう考えると、確かに私も文章を通してコミュニケーションをしてますね。
中島 すごい。新境地ですね。その作品もぜひ拝読したいです。
島本 ありがとうございます。中島さんは、今後、俳優としてやっていきたいことはありますか。
中島 『よだかの片想い』にも通じることですが、作品を通して多様性を示していくことは大事だなと思います。男の子が子どもの頃から触れてきた物語とかドラマで描かれるのって、悪い人をやっつけたり、正義のために闘ったりするタフでマッチョな人間像が多いんですよ。でも、僕は映画や落語に触れるうちに、かっこいい人より、みっともない人が好きになってきて、「あっ、これでいいんだ」ってことを思えるようになったんです。美しさも生き方もいろいろあっていいと思うし、映画などの芸術には、それを示していく役割があるんじゃないかなって思っています。
島本 色々な美しさ、私も映像を通して知りたいです。これからのご活躍を楽しみにしています。
中島 はい、頑張ります。今日は貴重な機会をありがとうございました。全然、話し足りないですけど(笑)。
島本 そうですね。またぜひゆっくり話しましょう。
映画『よだかの片想い』
松井玲奈 中島歩
藤井美菜 織田梨沙 手島実優 青木柚 池田良 三宅弘城
原作:島本理生 監督:安川有果 脚本:城定秀夫
主演の松井玲奈自身が惚れ込み、長年熱望していた小説『よだかの片想い』の映画化がついに実現。理系大学院生・前田アイコ(松井玲奈)の顔の左側にはアザがある。幼い頃、そのアザをからかわれたことで恋や遊びには消極的になっていた。しかし、「顔にアザや怪我を負った人」をテーマにしたルポ本の取材を受けてから状況は一変。本の映画化の話が進み、監督の飛坂逢太(中島歩)と出会う。初めは映画化を断っていたアイコだったが、次第に彼の人柄に惹かれ、不器用に距離を縮めていく。しかし、飛坂の元恋人の存在、そして飛坂は映画化の実現のために自分に近づいたという懐疑心が、アイコの「恋」と「人生」を大きく変えていくことになる。
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