入ったからこそ学べたこと
――バークリー音楽大学で実際に何を学べたと感じていますか?
僕は受けたい先生の授業だけ受けて、それ以外はほとんどバンドのツアーに出ていたので、おそらく学校側からすれば“ダメなタイプの生徒”でした(笑)。
ただ「自分がどういうミュージシャンになれるのか」という可能性を引き出してくれる所、ということは確かだと思います。
例えば僕はドラムの他に、インドの打楽器であるタブラも学びました。友人からタブラを譲り受けて「学びたいな」と思っていたところ、インド人の先生のプレイをたまたま見かけて、それに感動したんです。
その先生は普段プライベートレッスンの募集はしていなかったんですが、電車を乗り継いで片道3時間かかるご自宅まで行き、「ここまで通うので教えてください」と頼み込んだらOKしてくれて。
タブラには10種類以上の音色や演奏方法があるんですが、楽譜や教科書が無いので、先生が演奏したフレーズを耳でコピーしなければいけません。最初の基本的な音色が出せるまでに2週間かかりました。
すると、ちょうどそのタイミングでインド音楽のアンサンブルクラスが始まって、1ヶ月後にライブが決まりました。そこから猛練習して、なんとかライブに出たんです。
その結果、ライブに参加していた人達との仲が深まり、校内で話しかけられたり、別のセッションにも誘われるようになったりと、色々な縁が不思議と繋がっていきました。
たとえ触り始めて1ヶ月しか経っていなかったとしても、タブラのプレイヤーとして自分が選ばれたのは紛れもない事実です。それは、他の誰でも良いわけではないということ。現場を任されている時点でその人は唯一無二で、「その人のかけがえの無さ」がある、ということを知りました。
――挑戦したことで新しい扉が開いたんですね。
在学中、自分が経験していないような大きな会場でクラスメイトが演奏したり、真似できない物凄い演奏テクニックを見せつけられたりと、悔しい経験も沢山あったのは事実です。
でもだからこそ「じゃあ俺は人にできないことを考えよう。あ、タブラやってみよう!」というように、自分の道を考えて、切り拓いていくきっかけを掴めました。
向こうで学んだこの姿勢や、新しいことに挑戦する好奇心は、「コロナ禍で時間があるから、ベースを学び始めよう。ハンドパンも始めてみよう」と、今も変わらず持ち続けています。
そうやって実際に行動を起こすことで、結果的にベーシストとしてもライブに呼んでもらったり、ハンドパンのイベントにも誘ってもらったりと、ドラマー以外の仕事にも繋がっていきました。
自分を他の人と比較する必要はなくて、自分が演奏するライブに対して、今まで学んできたことを全力でぶつけて、そこにいる人たちを喜ばせることが一番大事なんだと、身をもって学べたと感じています。
――今後はどういうミュージシャン人生を歩みたいと考えていますか?
今までは人が作る音楽に自分の情熱をぶつけて来たんですが、100%自分だけで音楽を作ったことも、考えたことすらもなかったんですね。
でも最近「自分の心の底から出る音楽って何だろう?」って感じ始めてきたので、それを頑張って形にしたいです。それが何歳になろうと、心の底から湧き出る自分の音楽を作りたいなと思っています。
その時にはきっと今までとは違う景色が見えるはずなので、楽しみです。
撮影/浅井 裕也 取材・文/佐藤麻水
Ryu Matsuyama
NEW ALBUM「from here to there」
2022.9.28 Release
11 Tracks / VPCP-86422 / ¥3,000(tax in)
https://VAP.lnk.to/fromheretothere_cd