活動を支えるボランタリーの精神

夏の間はライフセーバーとして活動しつつ、別の仕事もしている人がほとんど。活動はお金を稼ぐ手段ではなく、「ボランタリーの精神でしかない」と語る。とはいえ、ライフセーバーという社会活動をすることは、普段の仕事にも相乗効果があるよう。

「僕が心がけているのは、二面性の使い分け。いざ海で救助に出なければならないときは、自分がリーダーシップを発揮するんだという気持ちを持つことが大切なんです。溺れている人を助けなきゃいけないときに、謙虚ではいられないですから。

一方で、やっぱり海はひとりで守ることができない。みんなと危機感を共有しなければいけないし、チームで支え合うことが重要です。それは普段の仕事や人との関わりでも同じ。謙虚に一歩下がって、俯瞰で見るようにしています。その二つの心構えが持てているのは、ライフセービングの活動をしているからだと思います」(上野)

「死に直面する可能性がある仕事は、もちろん怖い」水難事故0に挑み続ける、ライフセーバーたちの覚悟_5
上野さんは普段、コンサルタントとして働く会社員。所属する西浜サーフライフセービングクラブでは、クラブの運営や後進の指導にもあたっている

やりがいを感じるのは、「ありがとう」の言葉。

「僕はライフセーバーとしての歴が浅く、去年初めて海での監視活動をしました。やっぱり、ずっと気を張っているし、責任感も伴う楽な仕事ではない。それでも、お客さんが“楽しかったです。ありがとうございました”と言って無事に帰ってくれる瞬間は、本当にやってよかったと思えます。安全は見えにくいものですが、必要とされていると実感できる言葉は、本当にうれしいですね」(繁田)

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繁田さんは湯河原のライフセービングクラブに所属。普段はフィットネストレーナーとしても活動している

「僕は今、同じクラブに所属する子供たちの指導者でもあるのですが、彼らが笑顔で楽しかったと言って海から上がってくる瞬間は、やっていてよかったなと思います。何度もライフセービングをやめようと思ったこともありましたが、続けている原動力は、これからを担っていく子供たちを育てるため。そのためには、やっぱりまだまだ、自分ががんばらなければいけないなと思っています」(園田)

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園田さんは、特別支援学校の先生でもある。「僕を見てムキーッと筋肉を見せてくる子もいます(笑)。ライフセーバーであることを生徒は認識できないないけど、保護者の方はすごく応援してくれていますね」
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コロナ禍前はプロとして活動していた西山さん。憧れのオージー・ライフセーバーに近づくべく、日本とオーストラリアを行き来しながらトレーニングを積んでいる。現在、絶賛スポンサーを募集中
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「日本ライフセービング協会が発行する認定ライフセーバーの有資格者は4472人(2022年8月現在)。下は10代から、上は50代まで活躍しています。子供の頃にライフセービングに触れた人たちが、20〜30代に競技者や海を守るライフセーバーとして前線でがんばる。そして、年齢と経験を重ねてからは次の世代を育てていく……。そのサイクルがどんどん大きくなって、ライフセーバーを目指したいと思う人が増えてくれたらいいですね。そうなることがきっと、水難事故の減少につながると思いますから」(西山)


取材・文/松山梢 撮影/nae.

日本ライフセービング協会の安全情報サイト
https://jla-lifesaving.or.jp/

ライフセーバーや活動者向けサイト
https://ls.jla-lifesaving.or.jp/

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