何度も口にした「甲子園っていいところですね」
無人のスタンドに入り、バックスクリーンの横からグラウンドを垣間見た。40歳を過ぎて、初めてナマで見た甲子園。全身に鳥肌が立った。翌2017年、NTTは都市対抗で初優勝を果たす。
2021年限りで監督を退任。長く病に伏せっていた父親が、今年2月、飯塚がユニフォームを脱ぐのを見届けると、力尽きるように他界した。その後に、解説の話が来た。「親父にも見せてやりたかったな」と思い、バッグに父親の写真を入れて解説席に座った。
解説では、ともすると試合に浸ってしまう。社会人野球の都市対抗でも解説は経験しているが、まったく感覚が違う。ベテランの解説者に聞くと「甲子園も普通の球場だよ」と言われたが、「ここで野球をやれることが凄い」という気持ちが先に立つ。
試合中、「甲子園っていいところですね」と何度も口にした。敗色濃厚のチームの試合終盤の反撃にスタンドから湧き上がる拍手を聞き、「これが甲子園なんですねぇ」としみじみ言った。
「カッコつけずに心から出てくる言葉を素直に言ったつもりです。しゃべりのテクニックもないし、ボキャブラリーもそんなに豊富じゃない。自分の知っている野球を伝えただけなんです」
それでいて、走者がいる場面での外野手の打球処理や、三塁ベースコーチの心理などにも言及する飯塚の、きめ細かな解説は高評価を受けていた。
「すべて自分自身がやってきたことなので。大学で細かい野球を教わり、キャプテンをやり、社会人で引退してからはベースコーチも経験しました。それなりに広い視野で野球を観ることが出来ていると思います。
それに、こうして甲子園という晴れ舞台に出てきたチームですから、中心選手だけじゃなく、縁の下の力持ちであるベースコーチもクローズアップしてあげたいじゃないですか」