「思いやり」が私を苦しめる。芥川賞候補の話題作!
女子高生のまどかは年上女子のうみちゃんとお試しでつき合っているが、だからといって自分をLGBT扱いされることに困惑している。生理が来るのがイヤで食べずにいるだけなのに、拒食症を心配される。どこにも分類できない心の苦しみを描く、新時代の青春小説。
突然だけど、友達から自分が同性愛者だと打ち明けられたことはあるだろうか? そんなとき、なんて言うべきだろう。「応援するよ」「ふつうのことだよ」とか? でも、友達を傷つけたくない、というやさしさが、もしかしたら逆にその人を傷つけてしまうかも。「LGBTの人」とカテゴライズして答えることは、ときにその人特有の心を無視して、勝手に決めつけることにもなってしまうから。
主人公のまどかと友達、交際相手との関係がテーマのこの小説は、推し活やSNS、摂食障害、親の問題……と今の10代女子が生きる世界を浮き彫りにしながら、誰にもわかってもらえないことの痛みと、それでもかけがえのない誰かと生きていきたいという願いを切実に描いている。
悩みを誰かとわかちあえたときはホッとするけど、でも自分にしかわからない悩みもいいものかもしれない。つらいけど。読みながらそんなことを思いました。
小学校入学を機に育ての「ママ」から離れ、産みの「お母さん」と暮らし始めた宙。自由すぎる「お母さん」に我慢できず家出した宙は、ビストロで働く佐伯に助けを求める。そこで"ごはん"を通して見つけた理想の家族とは?
大切な人間関係を失い傷ついた主人公たちが、また誰かとの関わりを築いていく姿を描いた5編の短編集。心情の機微が丁寧に描かれており、新たな一歩を踏み出す登場人物に勇気をもらえるはず。第167回直木賞受賞作。
著者が毎日新聞で連載中の「人生相談」より、108のお悩みを収録。一見、難解なお悩みもあるが、高橋さんの回答がなんとも温かく誠実。読後は「話を聞いてもらえてよかった」というような、すっきりとした気持ちになる1冊。
2022年10月号掲載
選書・原文/花田菜々子 web構成/轟木愛美 web編成/ビーワークス