『ドドドJUMP』のマンガ表現で聴覚障がい者の一助に
最後は『ドドドJUMP』について、『少年ジャンプ+』籾山悠太副編集長と、ブラックリボン軍代表の江國翔太氏が語った。2022年6月にベータ版をリリースした『ドドドJUMP』は、撮影した動画を読み込むとAIが自動で動画を解析し、内容に合わせて自動でフキダシや効果音が追加されたりコマ割りされるなど、動画のマンガ風アレンジが簡単にできるアプリになっている。
対談中、アプリの実機デモも行われた。細野編集長がPCで作業している時にカメラに気づき、手を振りながら「『少年ジャンプ+』をよろしくお願いします」とひと声かける動画を事前に撮影し、これを『ドドドJUMP』で読み込んだ。すると、細野編集長の話した言葉がフキダシになっただけでなく、PCの作業音を表現する「カタカタ」、手を振るところを強調した「わいわい」という、2種類のオノマトペがマンガ風に文字化された。今回は用意した動画を読み込んだだけだが、その後さらに編集を加えることも可能だ。
制作過程について、江國氏は大学在学中、音を認識・可視化する技術に興味を持っていたという。擬音で音を覚えたという聴覚障がい者の方の話も聞き、聴覚障がい者向けにもマンガ表現が使えるのではないかと思ったそうだ。そんな中、2018年に『第2期少年ジャンプアプリ開発コンテスト』の話を聞き、友人4人で『ブラックリボン軍』を結成。スマートフォン向けARアプリとして応募し、入賞を果たした。
籾山副編集長も当時の印象を振り返る。
「僕は技術的なことは全然詳しくないので、ただただ感動するばかりでした。マンガの表現が聴覚障がい者の方の支援につながったり、動画としてマンガ表現を使った面白いコンテンツができそうだなと思い、当時のアプリ開発コンテストでお声かけしました」
制作にあたっては、全体の仕様設計、UI・UXのデザインディレクション、AIロジック・学習データの作成を『ブラックリボン軍』が担当しつつ、アプリ開発会社・AI開発会社の協力も得て進行。籾山副編集長と週1回のミーティングを重ね、そのフィードバックを反映させていった。その過程で、当初想定したARアプリから、動画変換アプリへの変更もあったという。
ベータ版が2022年6月リリースされたが、これをふまえた今後の目標について、江國氏は最後にこう伝えた。
「マンガというメディアに、新しいコミュニケーションインターフェースという役割を持たせられないかと思っています。マンガは世界中の人々に楽しまれているメディアであるとともに、聴覚障がい者にとっては実用的な表現方法でもあります。マンガがインターフェースとなることで、たくさんの人の日常を楽しくできるのではないかと考えています。」(江國氏)
今回の3つのサービス事例を聞いていると、それぞれのサービス開発者に『少年ジャンプ+』担当編集者が寄り添い、新サービス創出のために果敢に挑戦している様子がうかがえる。
だが、マンガの編集者・編集部がこのようなデジタルサービスにも密接に関わるモチベーションとはなんなのだろう。後編では、『少年ジャンプ+』細野編集長へのインタビューを通して、その背景に迫る。
なお、『ジャンプアプリ開発コンテスト2022』へのエントリーは9月16日まで。応募締め切り後、9月から10月の1次審査、10月から11月の2次審査、12月の最終審査と進み、最終結果発表は2023年1月の予定だ。ファンコミュニティ、データ分析、海外ローカライズ、新しいマンガ表現など、ジャンプの進化につながるものなら、企画内容は問わない。
入賞者には賞金が贈られ、実際にアプリ開発を行うことになった場合、賞金とは別に開発資金も集英社より提供される。コンテストの詳細や募集要項等に関しては、『ジャンプアプリ開発コンテスト2022』公式サイトを参照してほしい。
文・撮影/若林健矢