沖縄の、この場所でしか見られない笑い
その日のお笑いライブには珍しい「取材ルール」があった。
メディア用に配布された用紙には、上演予定の9つのコント名が書かれていて、その内の3つのプログラム名に網がかけられていた。「平和コンサート」と「トイレットペーパー」と「大統領テニス」だ。その3つのコントは「映像・写真撮影NG」なのだという。理由は、内容が「キワドイ」から。
もちろん、それぞれのコントには、相応の意味がある。ただ、誰もが簡単に情報発信および拡散できる時代だけに、安易に切り取られ、意図と違った方向に解釈されることを心配したのだ。
6月12日、沖縄県那覇市の国際通り沿いにあるテンブスホールでは「基地を笑え! お笑い米軍基地2022」の二日目公演が開催されていた。同ライブは、FECという沖縄の芸能プロダクションが毎年夏に開催する恒例の、社会風刺をメインに置いた新作コントライブだ。
企画・脚本・演出を担当する「まーちゃん」こと、小波津正光のトレードマークはボーラーハットだ。沖縄を代表するローカル芸人でもある小波津は、世界の喜劇王チャーリー・チャップリンの話をよく引き合いに出す。ボーラーハットは、どこかそのチャッププリンを彷彿とさせた。
小波津は、いつも何かに挑むような調子で語る。
「ここ2年はコロナで観に来られない人もいたのでライブ配信をやっていたんですけど、今回は配信はやらない。DVDをつくる予定もないです。今の世の中はグローバルだか何だか知らないけど、どんどん広めようという方向に向かっている。広める以上、コンプライアンスに敏感にならざるを得ず、自分たちで勝手に規制をしていく。
でも僕は逆。舞台という限られた場所で、もっと言えば、沖縄の、この場所でしか見られない、やった瞬間に終わってしまうものを共有したい。そういう人たちが集まってくるところだから、おれたちはこういう表現までやるよ、と。そこは演者とお客さんとの暗黙の了解というか、ある種のプロレスでもある。それが本来のエンターテインメントだと思うんですよ。自分の中では、ここは世界一自由な空間だと思っています」