先輩たちの敗戦を目の当たりにして、謙虚になる
これらのチームに共通していたのは「先輩らほど力がない」と下の世代の選手たちが謙虚に実力を受け止められたことだ。浅村は「あの先輩らで負けたんやから、自分らはもっと練習しなくてはいけないと思った」と語っている。
「個のポテンシャルの高い選手が揃っている」と感じたはずのチームが儚く負けていく姿を見て、本来はエリートである彼らのお尻に火がつくのだ。
それが顕著に出たのが、2008、2012年のチームだった。
では、今年はどうか。秋の神宮を制しているとはいえ、もともと力があるというチームではなかった。
チームには捕手でドラフト候補と騒がれる3年生・松尾汐恩がいるが、森と比べて総合的な評価は現時点では高くないし、1番の3年生・伊藤櫂人も浅村ほどのスケールはないように見える。
2年生・左腕の前田悠伍の存在感は確かにあるが、投手の厚みで言えば、大阪大会の決勝戦で3年生投手が先発を任されない現状では、力があるとは言い難い。
しかし、だからこそ、手強いのだ。
大阪桐蔭の手強さは「勝ち方」を知っていることだ。大阪大会はどれも圧倒的なスコアだが、決勝戦に象徴されるように、着実に得点を重ねていく戦い方が持ち味だ。
大阪大会決勝戦は12安打で7得点。ホームランは出ていない。3回裏の先制の場面は2イニング連続で3者凡退に抑えて流れを掴んだところから、先頭の星子天真が出塁。2死3塁からカウントが有利になって、ストライクを取りにきたところを1番の伊藤が左翼前に運んだ。4回には松尾の右翼前テキサスヒットが2ベースとなり、4番の丸山一喜の中前安打で1点。犠打で送って、星子、鈴木の連続タイムリー、前田に長打が出て着実に得点を重ねて試合の趨勢を決めたのだった。
勝負どころがどんな場面であるかを理解して、匂いを嗅ぎつけた時は貪欲に得点を奪いにいく。一方、流れが悪い時は、ディフェンス面で耐えて反撃を待つのだ。個のポテンシャルが恐ろしく高いわけではないが、この戦い方のうまさこそ、優勝候補にふさわしいチームと言える。