『レベルE』が語源といえる理由

先述の通り、マンガから生まれた新語・流行語は無数にあっても、国語辞典に掲載されるに至るには高いハードルがある。冨樫義博の『レベルE』(1995年〜)から生まれた「斜め上」という言葉が『三省堂国語辞典』に掲載されるまでも、長い道のりがあった。

「斜め上」は冨樫義博の『レベルE』が語源⁉ 辞書に載ったマンガ生まれの言葉たち_3
©冨樫義博1995-1997年

現在の国語辞典の役割について、飯間さんはこう語る。

「もはや辞書を買わなくても、Googleがあればすぐに意味を調べられるし漢字変換もできます。今後の辞書は、Googleに任せられる部分は任せて、むしろ、その言葉にまつわる『知っておいたほうがいい情報』『その言葉を使うときの機微』などを根拠をもって説明したいと考えています。語源や言葉の由来についてしっかり調べて記載するのもその一環ですね」

「斜め上」の語源については、ネットではさまざまな憶測が流れていた。飯間さんはその噂の真相をひとつひとつ調べていったという。

「たとえば魔夜峰央さんの『パタリロ!』(1978年〜)が最初だ、という意見もありました。『パタリロ!』に書いてあるのを見た、と言っている人が複数いて、辞書を作る側としてはきちんと調べてみたいと思うわけです。

しかし結果から言うと、パタリロ説はどれも伝聞情報で、証拠になるものがありませんでした。さらに松本人志さんの『遺書』(1994年〜)にも『斜め上』というワードが出てきますが、そこでは『一般のレベルよりやや上』の意味で使われています。

そうした調査を経て、やはり明確に出典が確認できる『レベルE』が語源だろうということになったんです」

もちろん飯間さん自身も『レベルE』を読み、「斜め上」が登場するシーンを自分の目で見て確認した。

「『レベルE』では、『予想を覆す、想定し得る範囲を超える』という今の使い方とまったく一致する意味で『斜め上』という言葉が登場しています。これは間違いない、ということでようやく『三省堂国語辞典』に載せることができたわけです」