じーっくり、みーっちり描かれた大人の恋愛
久しぶりに、恋に落ちて、愛に戸惑う大人の男女の心理状態をじっくりみっちり描いた作品を観た。物語は、1920年のマルタ共和国に貨物船から降り立った船長のヤコブ(ハイス・バナー)が、カフェに最初に入ってきた女性と結婚すると友人に宣言したことから始まる。その最初に現れた女性が、レア・セドゥ演じるリジーという訳ね。いや、そりゃあレア・セドゥなら超ラッキーでしょう。ヤコブは躊躇なく当たって砕けろの心意気で声をかけて、まんまと成功。シリアスなラブストーリーなのに、突拍子もない出だしは快調に進んでいく。
だが、画面が仄暗く、夜の海の水面のショットなどを観ていて不穏な空気を感じていた通りの展開に。新婚の楽しげな時期が過ぎると、ヤコブの心には謎めいた妻リジーに対して猜疑心や嫉妬の気持ちが湧き起こり、結婚生活そのものに翻弄されて苦しむことになる。海では思いのままだが、陸に上がれば情けなくも自分を見失うヤコブ。その心の有りようは、夫ヤコブの視点から妻を見て描かれていく。
リジーは自分が航海で留守の間に浮気をしているのではないか。ヤコブを嫉妬に駆り立てるのは、リジーの友人デダン(ルイ・ガレル)の存在だ。裕福な彼はエレガントな雰囲気もある。フランス人同士のリジーとデダンが親密そうに話している様子を、疑いの目で追うヤコブ。孤独だった海の男が掴んだかに見えた愛と官能の時間は、今では苦悩に満ちていたが、それでもリジーを求めるヤコブだった。