竹田市では連載時から大きな反響が

その協力者には当時、市役所の商工観光課に在籍し、現在は竹田市観光ツーリズム協会で運営に携わる後藤篤美さんの存在も。赤神氏が“生き字引”とリスペクトするほど、今作の成り立ちにガイド役として欠かせぬ役割で、プロモーションにも尽力されたという御本人に話を伺った。

「いや、私からすると赤神さんの質問のほうがものすごくて。執筆されている時もメールでどれだけきたことか(笑)。でもこうして歴史や文化がありながら、なかなか知られることのない地方を舞台に書いてもらい、こちらでは連載中から大反響でした。地元の書店も盛り上がりましたし、東京から来られて、作品に登場する場所を聖地巡礼みたいに回る観光者もいましたから」

同協会ではWebサイト「たけ旅」で観光スポットを紹介しているが、そこには『はぐれ鴉』に登場する岡(竹田)城跡や切支丹洞窟礼拝堂など旧所名跡から「大蛇伝説」の神社、くじゅう連山をバックに自然豊かな高原や湧水地に長湯温泉まで、まさに巡礼したくなる場所を多々掲載。さらに、TAKETAキリシタン謎PROJECTの一環として、作品とその舞台を動画でPRするPVまで作成した。

小説ではその長湯にあるユニークなガニ湯や全国でもレアな炭酸泉の湯治場も印象的かつ重要な役割を果たす。周辺地域含めて何気ない遺物や偶像であり、物ノ怪(け)の伝承や童謡のような歌詩までミステリアスに散りばめられ魅力となっている。単行本化が決定すると、現市長体制でもコラボを継続、ふるさと納税の返礼品とすることに。さらに出版記念イベントや聖地巡礼を誘発する仕掛けなども検討されているそう。

「時代小説のほうが自由度も高く、物語自体は完全な創作ですが、利用できる部分は史実を活かしています。ここで何か欲しいなと思ったら、ちょうどいいエピソードがあるという偶然に何度も救われました」という赤神氏。名産品である“姫だるま”も「どうしてあんな形のだるまが山奥で昔から作られ続けてきたのか、考えてみるとミステリアスなんです」と想像を巡らせた。

そのイメージが隠しキリシタンと結びつき、ヒロインで“はぐれ鴉”の娘である英里(えり)に繋がる。ミステリーのみならず、仇と定めた男のひとり娘に惹かれる才次郎との許されぬ恋愛ロマンスもまた切なく、若きふたりの成長譚であり、仲間となる個性豊かな藩士たちとの青春群像としても爽快な読み味となっている。

「当初はヒロインが真っ直ぐすぎたのですが、編集部のアドバイスで彼女に陰を付け足したことで恋愛に深みも出て話もよくなったかと」(赤神氏)。実は、南蛮人の血を引いている英里だが、藩内きっての剣の遣い手でもあり、碧い瞳をした美貌から“竹田小町”と呼ばれている。生き字引の後藤さんも「実際、竹田では今でも目の色の違うエキゾチックな顔立ちの女性を見かけますよ」とアピール。

今回、市長に付き添って来訪した市の総合政策課まちづくり推進係の担当者は岐阜県からの移住組だというが「私からすると、英里をはじめ、竹田の女性たちがキレイに美化されすぎな気もしますけど(笑)。まだ自分も知らない地元のことがいろいろ描かれていて、一気読みしました。簡単には行けない隠し里のような神秘性のある場所なので是非いらしてください」。