「子供の頃に本を読まなくてよかった」と思う理由
道尾 僕もちゃんと小説を読み始めたのは遅くて、高校2年生からなんです。いつも思うんですが、小学生の頃に神社仏閣に連れて行かれてもピンと来ないのと似ていて、僕の場合、小さい頃に小説を読んでもきっと面白いと思えなかった。だから、子供の頃に読まなくてよかったなと思っています。
ただ、作家さんの中には、それこそ小学生くらいのときから1日1冊読んでいました、みたいな人がごろごろいるんです。そういう人たちと話していると、自分の読書スピードが遅いことに気づく。けんごさんはそういうことはないですか?
けんご 僕は作家さんとお話しする機会はあまりなくて、小説を初めて読んだ人とか、読み始めたばかりの人とコミュニケーションを取ることが多いので、まだ、そういった実感はないですね。
道尾 もしかして、速いのかもしれないですね。野球されていたから、目がいいのかも。動体視力がいいのかな。
けんご どうだろう(笑)。大学生のヒマなときは1日1冊読んでいました。今は、月に10冊から15冊くらいですが。
道尾 それはすごいですね。僕は読むのが遅いから、たくさんの原稿を読まなくちゃいけない新人賞などの選考委員の仕事は大変(笑)。ただ、「小説すげーな!」っていう新鮮な感動が今もあるのは、読書体験の始まりが遅かった人間ならではだと思っているんです。だから大事にしたいなと思っています。
けんご どちらかというと僕は、読むのが遅かったのを後悔していたので、今、道尾さんの話を聞いて、そうだなと思いました。
紹介動画を作るときに、絶対に意識していることがあるんです。今でこそ、30万人近くの方にフォローいただいて、見てくださる方が増えたんですが、どれだけ増えても、小説を全く読んだことのない方が僕の動画を見て、本を読みたいと思ってくれるかどうかを考えようと。
道尾 人生で本を読んだことのない人に向けて作っている。
けんご はい。たとえば東野圭吾さんという、すごく有名な作家さんがいる。でも、僕の動画では、東野さんの名前とか、たとえば300万部売れているといった情報ではなくて、物語の内容だったり、『N』でいえば斬新な設定だったりとか、そういう点にフォーカスしなきゃいけないということを、いつも考えています。
道尾 そうですよね。300万部といわれても、本を読んだことのない人にとっては、すごい数字なのかどうか、わからないですからね。本を読んだことのない人の気持ちをリアルに想像できるのは、けんごさんが本を読み始めるのが遅かったから、というのもあるんでしょうね。
僕も伝え方をいろいろ工夫していかなければいけないと思っています。最近、SNSなどで僕の小説のネタバレを書く読者がたくさんいるんですよ。ミステリー界隈では絶対的なタブーとされている行為ですが、僕自身はネタバレする人が増えていくことを誇りに思っています。きっと、ミステリーファンでない人が読んでくれているわけだから。これに限らず、何についても頑なにならないほうがいいなあと思っているんです。頭をぐにゃぐにゃにしておくと、面白いアイディアが出てきたりする。書くときも、読むときも、頭を柔らかくしておこうと、けんごさんとお話しして、改めて思いました。
今日はお時間をいただき、ありがとうございました。
けんご とても緊張しましたが、楽しかったです。こちらこそありがとうございました。
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