俳優組合とハリウッドメジャー各社との間で締結されている基本合意書とはどんな内容のものなのか。1つの例として、世界的に大きな話題となっていた「#MeToo」運動を念頭に、セクハラ防止に関する規定をご紹介しましょう。
まず、オーディションは、原則として、ホテルの個室など、俳優がプロデューサーらと密室になる環境下で行うことはできません。
また、プロデューサーは、俳優に対して、基本的にはインタビューやオーディションの前に、性描写が含まれる場合は、そのことを通知しなければなりません。オーディションでは、性行為の演技を行わせることが禁止されており、ヌードシーンについても、
①最終オーディション以外でヌードを確認することは禁止
②俳優には希望する人物を同席させる権利がある
③俳優はニップレスやGストリングなど着用可能
④キャスティングに必要最低限のスタッフのみ同席可能
⑤携帯電話など個人の撮影機器を使用することは禁止
といった規制が定められています。これによって、少なくとも「オーディションだと思って現場に行ったら、いきなりその場でヌードになることを強要された」といったセクハラのトラブルは、(少なくとも仕組みとしては)今後は減っていくことが期待されます。
実際の撮影に際しても、プロデューサーは俳優から性描写を撮影することに関して、事前の書面による同意を得なければなりません。同意書には、撮影するシーンの内容に関する説明、及び当該シーンに対応する脚本のページと、プロデューサーに対する連絡先を含める必要があり、これにより俳優は撮影シーンの詳細を事前に知ることができるとともに、必要な場合にはその解釈等についてプロデューサーに問い合わせることができます。
英文で800ページ超の基本合意書
また、撮影前までは、いつでも当該シーンを撮影することに関する同意は撤回することができます(同意が撤回された場合、プロダクション側には代替措置として、デジタル技術等により当該シーンを完成させることが認められます)。撮影に同席し、又は撮影の様子をモニターで見ることのできるスタッフの数も必要最低限に絞ることとされており、現場においては俳優にバスローブが提供されなくてはなりません。
日本の感覚だと、そんなことまで基本合意書のなかで規定されているのか、ということに面食らってしまいそうですが、これがまさに「契約書は詳細に定める」というアメリカ流なのです。この、様々な労働条件を定める基本合意書だけで、英文で800ページ以上の分量になりますから、日本の一般的な法令よりもかなり長いことになります。基本合意書の内容を全て把握することは現地の弁護士ですらひと苦労で、ハリウッドのメジャー各社は、自社内に労使関係専門(ギルド専門)の弁護士を抱えていることが一般的です。