卒業生には漫画家も作曲家も

「カイ日本語スクール」は、1987年に設立された老舗の日本語学校だ。これまでたくさんの留学生を受け入れてきたが、

「志望動機をよく聞いてみると、アニメや漫画という人が多いですね。ほとんどかもしれない」

と代表の山本弘子さん(63)は言う。

「10年ほど前には、ロボット工学を研究しているメキシコの学生が留学してきたことがあります。彼は『鉄腕アトム』に描かれた人間とロボットの共生社会に感動して、研究者の道に入り、日本にやってきたんです。うちで日本語を学んで、日本で機械関連の会社に入っていきましたよ」

「昔はお金、今はアニメ」変わる外国人留学生の来日動機_4
30年以上ずっと日本語を教え続けてきた「カイ日本語スクール」代表の山本弘子さん

卒業生の中には、日本でクリエイターになった人もいる。『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』『さよならセプテンバー』などで知られるスウェーデン出身の漫画家オーサ・イェークストロムさん、それに2021年公開のアニメ『竜とそばかすの姫』で音楽を担当したやはりスウェーデン出身の作曲家ルートヴィヒ・フォルセルさんも、同校で学んだ。

日本のサブカルコンテンツに惹かれて言葉と文化を学びにやってきて、今度は発信する側になっていく。「JOJO」好きなウクライナ女子のヴィクトリアさんもそれが目標だ。

「一度でいいからゲームの翻訳に携わってみたいんです。『逆転裁判シリーズ』が大好きでハマっているんですが、その英語版と日本語版ではテキストがだいぶ違うんです。英語版ではアメリカの文化に合わせて変えられている部分が多いんですよ。背景まで捉えて翻訳するのは難しいのですが、それに挑戦したい」

彼女たちのような留学生が増えはじめたのは、20年ほど前からだと山本さんは言う。

「日本の景気が良かったころは、経済学部からの留学生ばかりでした。いろいろな国で、日本の経済に学ぼうと『日本学』なんて学部がつくられて、そこから学びに来ていました。でも、バブル崩壊とともに潮が引くように去っていっちゃった」

代わりに増えたのは、日本のサブカル文化を愛する留学生たちだ。

「日本のことを、お金ではなくて文化で見てくれる、好きでいてくれる。だから教える側としても、いまのほうが面白いですよね」

日本人が考える以上に、日本のコンテンツは外国人を惹きつけているのだ。

(写真撮影:室橋裕和)