シニア転向後の苦闘

樋口は「感情量の多い選手」と言えるだろう。女子フィギュアスケーターの中では異彩を放つほど、女傑のような猛々しさを美しい演技の中に漲らせる。自分でも制御できないほどのエネルギーが、彼女を突き動かすのだ。

そのスケーティングはまさにエネルギッシュで、勇ましさすら感じさせる。基本的な脚力に優れ、体全体のコーディネーションにも長じるため、スピードとパワーを同時に生み出し、それを表現につなげられる。芸術が爆発する風情だ。

技術的にも、体力的にも恵まれた選手と言える。

2014年の全日本、中2で表彰台に立ったのは2004年の浅田真央以来だった。2015年もまだジュニアだったにもかかわらず、2位に順位を上げた。フロックではなく、綺羅星のごとき台頭だった。2016年の全日本2位で、世界選手権にも出場した。

2017-18シーズンは、平昌五輪出場を懸けて全日本に挑むも、ケガもあって4位と順位が伸びない。結果として、あと一歩に迫りながら五輪代表の座を逃した。

「サルコウが決まっていたら」

関係者の間で語り草になったが、回転をひとつ落としたことが、明暗を分けることになった。

その後、彼女は持ち前の反骨精神を見せた。2018年の世界選手権では銀メダルを受賞。荒々しいまでの不屈さだ。

しかし、その前後で彼女は苦しんでいた。

シニアに転向後、樋口は成長期に入り、コンディションコントロールに苦しんだ。女性特有と言えるが、この時期、体全体がふくよかになるだけに、思ったように体重が落ちない。

強いストレスにつながり、技術精度が落ち、それが心身の充実を妨げる。その悪循環が起きていた。