女人禁制の厨房

厨房に立った男たちは、ボウルの中の卵黄を解きほぐし、フライパンをリズム良く振り、ナイフを器用に使っていた。棚から調味料を出し、少量を振ると、慣れた手つきで味見をし、意を得た顔つきになった。エプロン姿がやけに様になっていた。

そこは基本的に男のみが料理をすることを許され(女性は食べる専門)、ワインやシャンパンやシードルと共にたしなむ社交場である。

「Sociedad Gastronomica(ソシエダ・ガストロノミカ)」

スペイン語でそう呼ばれ、「美食倶楽部」のように訳される。家族や仲間単位で厨房と食堂のある建物を使用する会員となって、美食を楽しむ。信頼できる者同士しか会員になれず、その意味で「秘密結社」のようにも言われる。

「世界一の美食の街」サン・セバスチャンの“秘密の社交場”に潜入_3
男子厨房に入るの図

ちなみに入会費は約10~20万円、年会費は3~4万円程度。材料はみんなで持ち寄り、ワインや調味料などは使った分だけ支払う。会員になるには、現メンバー全員の同意が必要だ。

はじまりの由来は様々ある。

「バスクは男女の格差が非常に少ない地域で、家で料理ができない男性のために生まれた」

「高尚な精神ではなく、男同士で集まる場所が欲しかった」

「家族だけでなく、友人同士が結び付き、レストランではできない内緒の会話を交わし、存分に(安く)料理と酒を楽しむため」

「単純に、男たちが週末に大好きなサッカーをゆっくり見る場所の確保」

おそらく、どれも少しずつ正しい。すでに100年以上にわたって続く、美食文化だ。