『おくすり飲めたね』開発秘話

事業や商品を整理する方針には、社内から強い反対があった。長く扱ってきたものをやめるのは、売上の見込みだけでなく、そこで働いてきた人の思いにも関わる。

それでも藤井氏は、限られた人員と資金を多くの事業に分散させたままでは、会社を立て直せないと考えた。低迷していた「クララ」を「龍角散」ブランドへ統合するなど、「のど」という専門分野へ力を集中させていった。

何を作るかを絞ったことで、工場の姿も変化を見せる。以前は多くの品目を製造し、製品が変わるたびに設備や作業を切り替える必要があった。

藤井氏によれば、製造品目を大幅に整理したことで、一つひとつの商品を集中的に生産できるようになり、自動化への投資も可能になった。千葉の工場では、製造から包装まで自動化を実現している。

そうして会社の売上高は社長就任時から約7倍に成長を遂げる。いっぽう、社員数は約100人のままだ。単純に人を増やして生産を拡大したのではない。何を自社で作り、どこに設備を投じるかを選び直した結果だった。

藤井氏の改革は商品だけにとどまらない。販路も変えた。薬局だけでなく、コンビニや菓子を扱う売り場にも商品を届ける。冬に偏りがちだった需要を、年間を通じたものへ広げる。

落語家・立川志の輔のCMでおなじみ、水なしで服用するのどの薬「龍角散ダイレクト」シリーズに加え、「龍角散ののどすっきり」シリーズの飴やタブレットなど、薬局とは異なる売り場で手に取れる商品も育てた。

もう一つ、商品に向き合う時間の取り方も変えた。服薬を助ける服薬補助ゼリーは、「薬を飲むことに困っている人がいる」と知って開発に取り組んだ商品だ。

服薬補助製品の『おくすり飲めたね』、『らくらく服薬ゼリー』(写真/齋藤周造)
服薬補助製品の『おくすり飲めたね』、『らくらく服薬ゼリー』(写真/齋藤周造)

「形になり、使う人へ届くまでには時間がかかりました。きっかけの一つは介護の現場。薬をうまく飲み込めない人がいる。それを何とかできないかと考えたんです。薬の飲み方には気をつけなければなりません。そこで、薬をゼリーで包む方法を考え、実際に飲み込むときの様子も調べました」

取材時、製品化に至るまでの資料を見せてくれた藤井氏。それは、藤井氏自身が実験台となって、服薬を試し続けた映像やデータの数々だ。その熱意、執念が伝わってくる。藤井氏は語る。

「もともとは介護の場面を考えていたのですが、子どもに薬を飲ませることで困っている親御さんも多かった。そこから商品を広げていきました。開発の出発点は、困っている人が目の前にいるということです」