「会社を続けるためには進化させなければなりません」
商品を整理し、工場を変え、販路を増やす。だが、改革のすべての出発点には、愛用者に向けた一つの問いがあった。「なぜ、まだ売れているのか」。その答えを聞いたことで、藤井氏自身、「龍角散」が何を強みとしてきた会社なのかを学んでいった。
「新しい販路を開くときには自ら現場へ行きました。社内で決定を待つより、取引先に会い、その場で判断するんです。新しいことを早くやるために、小さな会社だからこそ出せる速さを、経営の強みにしてきました」
古くからある会社を変えるために、まず会社の外へ出て、使う人の声を聞く。藤井氏が変えたこと、それは、商品や設備だけではない。自分たちの会社を、「誰の目から見るか」ということだった。
「会社の改革は、だいたい10年単位で考えてきました。売上が伸びる前から、いろいろな手を打っています。借入金を返しながら準備を進め、投資できる段階になってから一気に動く。急に成果が出たように見えても、その前には長い時間があるんです」
新しい販路を開くときも、藤井氏自身が現場へ出向いていった。コンビニ、海外。自分で見て、その場で判断する。社員の中でも、「一緒にやろう」と志をともにする人たちと積極的に進めていった。
経営者は社員の意見を聞く。ただ、会社全体や、その先の将来を見たうえで決めなければならないことがある。そして結果には、自分が責任を負う。伝統のある会社ほど、自分から変わるのは難しい。ただ、世代交代は、その会社を大きく変える機会でもある。
「もちろん抵抗はありますよ。それでも、会社を続けるためには進化させなければなりません」
藤井氏が大切にしているのは、「他人の真似をしないこと」だ。製品だけでない。ブランドの見せ方や広告も同様だ。誰でも同じことができるなら、自分たちがやる意味は薄い。「『龍角散』にしかできないことは何か?」。それを藤井氏はつねに考え続けている。
■社長就任時の1995年3月期と、直近2025年3月期と比較
売上高:40億円→約280億円
正社員数:100名→97名
年間広告費:3億円→約100億円
内部留保:12億円→120億円
自社工場での生産品目:50品目→4品目
主力製品のシェア:10位以下→1位(鎮咳去痰薬・のど飴)
取材・文/加賀直樹
(写真/齋藤周造)












