龍角散社長が明かす音楽の世界で見つけた「オンリーワン志向」
幼いころから音楽を学び、フルート奏者として活動してきた「龍角散」8代目の藤井隆太氏。高校から名門・桐朋学園の音楽科に通い、桐朋学園大学音楽学部へ進学。研究科在学時にはパリへの留学も経験している。
跡取り息子を音楽学校に進ませた父親(藤井康男氏)は、周囲に「実験だから」と語っていたという。徹底した早期教育の中でオーケストラを経験し、音楽漬けの日々を送った藤井氏。異色に見えた音楽教育は、後に経営者となる彼にとって、人間形成の大きな土台になった。
「父が用意した既定路線ではない教育こそ、その後の人生を方向づける『実験』だったんですね」
音楽高校に通っていた時、こんなエピソードがある。
「卒業後に食べていくには在学中に実力をつけるしかない」と痛感した藤井氏は、当時から演奏の仕事を経験し、師匠であるフルート奏者の小出信也氏からプロとしての覚悟を叩き込まれた。
ある日、酒席に呼ばれたのにうまく演奏できなかった藤井氏の代わりに、師匠は見事に吹いてみせ、
『笛は武士の刀と同じ。いつでも吹けるようにしておけ』
と一喝された。藤井氏はこの瞬間が忘れられないという。
「いつでも結果を出せる準備をしておく。のちの経営にも通じる教訓となりました」
パリ留学中は、できるだけ現地の生活に入り込み、異文化を身体で理解しようとした。日本人の自分は誰より練習しているのに、試験では練習量の少ない外国人学生たちが個性豊かな演奏で聴衆を引きつけている。
藤井氏は、「模倣するだけでは自分のものにはならない」と痛切に感じた。日本人ならではの独自性がなければ勝負できない。のちに経営者になるとは想像もしなかった時代に、「オンリーワン志向」が芽生えていった。
もっと社会を知らなければ。フルート演奏を続けながら、一時は一切楽器にも触れず、小林製薬や三菱化成工業で働いてきた。小林製薬時代、薬局を回る営業で藤井氏は、音楽の舞台と同じように考えた。
「その場で最善を尽くさなければ次の仕事はない」。その一心で仕事を楽しんできた。












