芸術系の学生の力を企業はもっと評価してほしい

「免停で営業車を使えなくなっても、試供品をリュックに詰め地下鉄で回り、むしろ好成績を上げたんですよ(笑)」

音楽で鍛えた度胸、現場対応力はビジネスでも武器になる。「だから、芸術系の学生の力を企業はもっと評価してほしい」。藤井氏はそう胸を張る。

三菱化成時代には記録メディアを担当し、フロッピーディスクなど極めて高い信頼性を求められる商品のクレーム対応を経験。顧客の怒りや不安に真正面から向き合う中で、ブランドにとって「信用」がいかに重要かを学んだ。

さらにITの知識を蓄えたことが、後に「龍角散」で生きた。中小企業ながら一気にIT化を進める力となったのだ。

父のがん再発を機に「龍角散」へ戻ることを決め、将来の経営を考えなければならなくなった。社長就任時は、幹部たちから「音大卒の若造に何ができる?」と嘲笑われた。この当時、会社は売上40億円に対し借入も40億円という、文字どおり危機的状況にあった。

「当時、社内には、音楽を学んできた自分に会社を立て直せるのかと疑う声がありました。まずは龍角散を知らなければと、工場へ通い、自分でも作業をしながら、会社の実態を確かめました」

多くの人から愛用されている龍角散(第3類医薬品)(写真/齋藤周造)
多くの人から愛用されている龍角散(第3類医薬品)(写真/齋藤周造)

とにもかくにも、まずは「自社の現場を知ること」。そう考えた藤井氏は、片道2時間かけて千葉の工場へ通った。実際の作業に加わりながら現場を観察してみると、さまざまな問題が見えてくる。

外の企業で営業や新規事業に携わった経験があったからこそ、社内では当たり前になっていることにも疑問が湧いた。

「工場の稼働、営業のやり方、変わる流通への対応。改善しなければならないことは多くありました」

ところが、それでも社内には、差し迫った危機を実感していない人がいた。会社の将来を心配していないのか、藤井氏が尋ねると、「オーナー経営ですから」「社長、金、持っているんでしょ?」。藤井氏は、その受け止め方に愕然としたという。