税務当局が直面する“見えにくい中国マネー”の仕組み

中国人向け求人サイトにもその痕跡はある。最近は減ってきたというが、求人情報内に「現金以外も可」を意味する隠語があり、それがWeChat払いの合図になっているという。申告不要を強調する「現金不報税」の記載も多い。逆に健全な求人ほど「現金払いはしない」とわざわざ注記しているほどだ。それだけ、そうした問い合わせが多いということだ。

こうした仕事の情報は、在日中国人で構成されるWeChatのグループチャットにも毎日のように流れてくるという。

「主に中国人妻が集まるグループだけで、私の住む千葉県松戸市には上限500人に達したグループチャットが4つあります。その中には『日本語ができる人』『普通免許あり』といった仕事のほか、転売要員の募集まであります。支払い欄には『現金払い』『キャッシュレス決済』『在留ビザ制限なし』と堂々と書かれています。

こうした支払いが成立する条件は、双方が中国国内に電子マネーと紐づいた銀行口座を持っていることです。日本円でないと生活しにくいのでは? と思われるかもしれませんが、東京・池袋や大阪・日本橋などのガチ中華街なら、外食や日用品、食料品の購入なども、人民元のWeChat払いで生活できてしまいます」

実際の中国人向け求人サイト。「現金不報税」は、現金払いで確定申告不要を意味する
実際の中国人向け求人サイト。「現金不報税」は、現金払いで確定申告不要を意味する

これによって、働く側は所得税や住民税、社会保険料を抑えつつ、額面のほとんどを手元に残せる。『年収の壁』を意識して働き方を調整する人がいる一方で、所得を申告から外せば、そもそも“壁”の外側で働くことになってしまう。雇う側も、帳簿上は最低限の給与だけを円で払えば、労使の公的負担を最小化できる。

とはいえ、人件費を計上しなければ法人税が増えるはずだ。しかし北上氏は言う。

「私が中国のビジネス現場で関わってきた経験では、中国には、税は当局に奪われるもので、奪われる方が愚かだという感覚があり、当局の制度や運用もそうした国民性を前提にしています。

よくあるのは、中国の会社へのコンサル料や設備の仕入れで帳尻を合わせ、目立たないよう香港のペーパーカンパニーを挟む手口です。日本の税務当局が中国の小規模事業者を調べるために、中国まで調べに行くのは非現実的ですし、中国側が日本の税収のために資金やデータを渡すメリットもない」

ただし、国外で動く資金が一切追跡できないわけではない。国税庁には租税条約などに基づき、外国の税務当局へ情報提供を求める制度がある。