PISAもRSTも否定する国語教育・文学研究者たち
PISAにキャッチアップしようという文科省の教育改革や大学入試改革の方向性を批判する勢力や、新井紀子のRST的読解力に疑義を呈する勢力もいる。
文科省批判の代表的な論客が、日本近代文学研究者の紅野謙介である。彼は『国語教育の危機 大学入学共通テストと新学習指導要領』(ちくま新書、2018年)や、『国語教育 混迷する改革』(ちくま新書、2020年)、『ことばの教育 日本語で読み、書き、考える』(青土社、2023年)といった著作を通じ、PISAを踏まえた入試改革や国語教育改革にはムリがあるとくりかえし論じている。
入試改革のみならず、PISAの影響を受けて高校国語の選択科目は論理的な文章や実用的な文章を読み解く「論理国語」、書くことや話すことといったアウトプットに特化した「国語表現」、小説、詩、短歌、俳句、戯曲などの文学作品を読み解く「文学国語」、古文や漢文を扱う「古典探究」などに再編された。
これに対しても紅野をはじめ、従来の国語教育の蓄積を重んじる立場からは多数の批判が行われた。
「論理国語」では、説明文や指示書(レシピやマニュアル)、契約書といった実用的なテキストを扱う——PISAの影響があきらかだ。言うまでもなく国語教育では、文学的・文化的価値のある作品を通じて情操や思考を育むことが重視されてきた。だからこそ機能的・情報処理的なリテラシー優先への強い反発が起こった。
平成29年(2017年)改訂の学習指導要領では、育成をめざす資質・能力が「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力など」「学びに向かう力、人間性など」の三本柱で整理された。
国語科では「読むこと」は「思考力、判断力、表現力など」を育成する領域として位置づけられている。
一方で、読書の指導事項は「知識及び技能」のなかの「我が国の言語文化に関する事項」に明記された。
この区分けは、「文学には論理が必要ない(感性だけで読むもの)」とか「論理的な文章には文学性(人間的深みや文化的文脈)が必要ない」といった不自然な二分法に基づいている、という批判を巻き起こした。
また、文学的な読書が「読むこと」の主たる指導事項として位置づけられにくくなり、結果として文学指導がおろそかになる、とも騒がれた│実際には、教育現場では極端な実用リテラシー教育への傾斜は起きなかったものの。
PISA型読解リテラシーの国語教育への導入には、文学研究者や現場の国語教師を中心に根強い否定的な声がある。なお、2032年度以降に高校で実施予定の次期学習指導要領では「論理国語」「文学国語」の区分は廃止され、またあらたな科目構成に再編される見込みだ。背景としては、ここまで述べてきたような反撥の大きさや、文科省の推計では2025年度に高校生の9割が古典探究、8割が論理国語を履修した一方、文学国語は5割、国語表現は2割にとどまったという偏りの存在が指摘されている。













