彼から教えてもらった理容師の本質

始業式が終わった日の夕方、旭岡さんの元に少年の母親から一通のメッセージが届いた。

『息子が学校から笑顔で帰ってきました。本当にありがとうございます』

その文面を見た時のことを旭岡さんはこう明かす。

「本当によかった……って、なんか安心して涙出ましたね。自分がやってきたことは間違いじゃなかったんだなって。理容師って容姿を整える仕事だけど、誰かを笑顔にしたり、救ったりできる仕事なんだと、彼と、ご家族に改めて教えてもらいました」

現在も旭岡さんと少年の間には、固い絆が結ばれている。

「SNSで繋がっているから、彼に何かあったらいつでも飛んでいける。それに、彼とは『いつか症状が良くなって、髪が伸びたら、今度は一緒にパーマかけようぜ』って約束してるんですよ。楽しみですよね」(旭岡)

不安な少年を笑顔にさせようと笑う旭岡さん(写真/旭岡さん提供)
不安な少年を笑顔にさせようと笑う旭岡さん(写真/旭岡さん提供)

旭岡さんはそう満面の笑みで語った。そんな旭岡さんのことを少年はどう思ったのか。

「『僕がやったら(髪を刈ったら)元気になる?』って聞かれて『はい!』って言ったら、ほんとに同じ髪型にしてくれて。本当にすごいです! ほんとうの漢だと思いました」

少年の心を軽くしてあげようとわざと大きく笑ってみせた理容師。旭岡さんは、同じように悩みや葛藤を抱える若者たちに向けて、こう言葉を紡ぐ。

「自分が床屋として最大限送れるエールが、今回の行動でした。だからもし辛いことや苦しいことがあった時は、一人で溜め込まずに周りの誰かに打ち明けてほしいなと思います」

「目黒六」の社訓は「髪一重」だ。「髪型ひとつで人生を豊かにする。そんな髪一重な体験をして欲しい」という意味が込められている。

ただ髪を整えるだけではない。理容師という仕事の本質と大人の覚悟が詰まったあの日のバリカンの音は、一人の少年の心に確かに響いていた。

少年の頭を丁寧にケアする旭岡さん(写真/旭岡さん提供)
少年の頭を丁寧にケアする旭岡さん(写真/旭岡さん提供)
すべての画像を見る

PROFILE●旭岡亘哉(ひのおか こうや)北海道出身。理容師。「MEGURO BARBER SHOP 6PPONGI 目黒六」店長。趣味は筋トレ。Instagram @kouya_megurokubarbershop

取材・文/佐々木一城