興奮して眠れなかった夜

「生け花ってのはなあ、全てに花鳥風月という表現があってさ……」

連れの女性に力説する中年男性。カウンターには花の写真が並んでいる。男は生け花と盆栽に造詣が深いようで、その言葉にはひけらかしではない熱量があった。西新宿の小さな炉端焼きの店。あの夜はたしか、小雪が降っていた。

「私もよく鉢植えを飾りますが、生け花や盆栽は何が違うんですか?」。隣の2人の話に引き込まれて、私は彼らに次々と質問をした。話題は華道から日本の古典文化に移り、店のオヤジも話に加わる。なんとオヤジの本職は祭り職人で、話題は日本の祭り文化へ。オヤジは酒をあおると、木遣り節を唸り始めた。

50年近く音楽と共に生きてきた私だったが、生け花の話も、祭りの話も、初めて聞くことばかりだった。隣の中年カップルも店のオヤジも、いい顔をしている。オヤジの名調子にテーブル席からも喝采が起こる。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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街の片隅には、こだわりを持って生きている市井の人たちがいる。居酒屋という開かれた場所で、ふとしたきっかけで始まる会話があり、世界が広がる喜びがある。

何かが始まる一期一会。「こんな場所を作りたい」と私は思った。居酒屋で1番面白そうな話をしているテーブルにマイクを置き、好きなことを喋ってもらったら、どうなるのだろう? 音楽ではなくトークのためのライブハウス。そんな空間は、世界中探してもないだろう!

1995年。タブーなき討論とサブカルチャー発信の場として今日まで続く、ロフトプラスワンはこんな出来事から生まれた。あの夜は興奮して眠れなかった。