高額療養費制度〈見直し案〉をめぐる高市政権の姿勢
西村 2025年12月25日の第9回専門委員会で具体的な引き上げ金額が示されましたが、あれを見た時はどんな印象でしたか?
天野 想像以上に引き上げをするのだな、これは厳しい、と思いました。 ただ、厚労省は「月額上限の引き上げ幅は昨年案の半分です」と繰り返し言っていたんです。それに対して率直に、「私たちがんや難病の団体は、この負担増だと厳しいと考えている」と申し上げると、ショックを受けた様子でした。
西村 自分たちはこんなに頑張ったのに、ということですか。
天野 「これだけ頑張っても厳しいと言われてしまうのか」という感覚なのかもしれません。しかし我々としても患者さんたちのことを考えれば、「よく頑張ってくださいましたね、じゃあこれでいきましょう」とは言えませんので、直ちに共同声明(「高額療養費の見直しに関する共同声明」2025年12月24日付)を出しました。
西村 ということは、霞が関の人たちはいかに現実が見えてないか、ということですか?
天野 現実が見えていないのかもしれないし、社会保障費を削減すべきだという財政上の強い圧力の中で、現実を見ずにやらざるをえない、という面もあるのかもしれません。
西村 でも、彼らの言うとおりに負担額を上げていくと本当に人が死ぬわけじゃないですか。
天野 だから、高額療養費は現時点でも自己負担額の引き上げに関しては、もう現在でもギリギリのところまで来ている、ということを知っていただかないと困るんですよ。
西村 その現実感がなくて、「これだけ頑張ったのに……」とショックを受けている人たちにどうやって理解をしてもらうか、という作業はハードルが高そうですね。
天野 ナラティブとエビデンスの両方が必要だと思います。ナラティブに関しては、患者や医療者の方々の声を2025年1月に緊急のオンラインアンケートを実施して、その声が国会でも紹介されました。しかし、それだけでは政治は動かないので、たとえば破滅的医療支出などのエビデンスも繰り返し国会で取り上げていただきましたが、それに対する答弁は、西村さんが本や記事で繰り返しご指摘されているように、同じような答弁を繰り返すばかりなので、なかなか厳しいところですね。
専門委員会の取りまとめ文書に「不断の改革」という文言があるとおり、厚労省は今後も不断の引き上げをしてくる可能性があると思います。しかし、不断の引き上げをしたいとおっしゃっても、患者の負担増はもはや限界に達していると声を大にして言っていかなければ、大変なことになると思いますね。
西村 でも、声を大にして言ってもはたして聞こえるんだろうか、という虚しさも感じるんですよ。特に今国会であれだけ話を聞かない姿勢を目の当たりにしてしまうと。
天野 答弁に関しては、去年は石破総理や厚労省も患者の声に寄り添わなければいけないという姿勢があり、国会答弁でも総理が一切メモを見ずにご自身のお気持ちを率直に発言する場面がしばしば見られました。それが一時凍結につながった面もあるんですが、今年は厚労省も政府側もそのときのことを反省材料というか教訓として、「鉄壁の答弁」で臨む、という方針であるらしいことは記者さんたちから漏れ聞いています。
西村 高市首相も上野厚労相も、木で鼻をくくったような同じ答弁ばかりを繰り返していますもんね。天野さんは今国会で、衆議院では予算委員会の公聴会公述人として(3月10日)、参議院で厚生労働委員会の参考人として(4月2日)意見を述べましたが、その際の感触はどうでしたか?
天野 政府答弁は、今おっしゃったように、いわゆる「鉄壁の答弁」を繰り返しているわけです。だから「政府は変えるつもりがないのだな」と、正直なところ感じざるをえませんでした。一方で、国会議員の方々は感触が変わってきていると思いました。
たとえば、与党議員の中にはかなり厳しい意見をお持ちの方もいて、昨年には私たち患者団体に対して「あなたたちは社会保障のことを全然考えていない」とお叱りをいただいたこともありました。しかし、今年になってからは「高額療養費は大切な制度なので、変えるべきではない」とおっしゃっていたそうです。他にも、高額療養費を引き上げるべきではない、という考えの与党議員の方々はいらっしゃいます。党議拘束もあるので反対の声を上げるのは難しいでしょうが、与野党を問わず我々の主張に耳を傾けて理解をしてくださる方々が増えていることは感じています。
全がん連の轟浩美事務局長が参議院予算委員会の参考人として答弁した時(3月25日)も、委員会の終了後に与野党問わずたくさんの議員の方々が轟さんに「頑張ってください」「応援しています」「あなたの言ったことはよくわかる」などと挨拶に来られました。「力になれなくてごめんなさい」と言いに来られた与党議員の方もいました。
西村 国会質疑では、高市首相が「8月まで専門委員会を開催するつもりはない」(4月7日参議院予算委員会)と言明しましたよね。あれは要するに、「患者団体や当事者が何を言おうが我々はまったく聞く耳を持っていません」という宣言のようにも聞こえたんですが。
天野 8月までに専門委員会を開催すると、今年8月の第一段階の引き上げに対する意見が出かねません。政府としては、2026年度の政府予算が国会を通過してすでに決まったことなのでこれ以上意見を聞く必要はない、という考えなのだと思います。
西村 そこはもう動かないんですね。
天野 2026年8月の第一段階の引き上げは、すでに政府予算案が国会で議決されているので、これは動かないでしょう。ただ、2027年8月の第二段階目については、国会での質疑と政府の答弁を聞いていると、まだ流動的なようにも思えます。
西村 ただ、上野厚労相は何度も「2026年と2027年をパッケージで実施する」と言っていますよね。
天野 具体的には、「制度見直し全体の一環としてパッケージで実施をさせていただきたいと考えています」と答弁しています(註:4月2日参議院厚生労働委員会。また、4月7日の閣議後記者会見でも「来年8月からの2段階目の内容についても、見直す予定はなく、一体としてご議論いただいているものと考えています」と発言)。つまり、上野厚労相はあくまでも「考えています」と言っていて、「承認していただいた」とは言っていないんですよ。
このように微妙な言い回しになっているのは、実はそこに明確な根拠がないからではないかと思います。実際に、この第二段階目の引き上げについては、2027年度予算案の審議で改めて議論すべきだ、と国会での質疑で複数の野党が指摘しています。だからいずれにせよ、来年8月の引き上げについてはまだ流動的だと思います。
西村 政府は「引き上げによる受診控えが発生しないように注視します」と言っているのに、パッケージで2年連続の引き上げをするとあらかじめ決めているのでは、注視をする意味がないですよね。天野さんたちは、この「パッケージ」という政府の考えにどう対応していくお考えですか?
天野 国会での質疑を聞いていると、2027年8月の引き上げは来年度予算案の話なので、その予算案審議の際に議論になることは避けられないと思います。
西村 今後はそこを視野に入れて要望活動をしていく予定ですか?
天野 2027年の引き上げを抑制していただくための活動と同時に、高額療養費の運用上の課題もありますよね。例えば年間上限を新設したのはいいけども償還払い(事後の払い戻し)になっていることや、保険者が変わると多数回該当がリセットされてしまう問題、現役世代は2万1000円を超えないと異なる診察科の合算ができない問題、といった運用上の課題は、できるかぎり早く修正していただけるように引き続き要望していきます。また、特に最近は子育て世帯の厳しさも焦点になっています。現状では扶養家族の人数は考慮されていないために、子育て世帯の過重な負担が可視化されていません。この部分については、高額療養費制度本体での対応が難しければ、たとえばこども家庭庁で支援の枠組みを別途作っていただく、などの追加的な対策もあり得ると考えて要望しています。
撮影/五十嵐和博
(後編に続く)














