厚労省作成の叩き台はツッコミどころがあまりに多く……
西村 天野さんたちが行ってきた要望活動に関することもいろいろと伺いたいのですが、まずは専門委員会の話に戻すと、「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」をまとめる際に、厚労省の叩き台に各委員から様々な指摘や要求があって、それらに修正を加えて取りまとめたものが2025年12月15日の第8回で示された文書でしたよね。
当初の叩き台は修正要求をしなければならない部分があまりに多かったので、文書に原案のまま残ってしまった箇所がいくつかあったじゃないですか。たとえば「諸外国と比べてもこのような恵まれている制度を擁している国はほとんどなく……」という、現実と乖離した自画自賛の文言が残っています。これは、そこ以外に指摘しなければならない箇所があまりに多かったので、天野さんたちもそこまで手が回らなかった。
天野 おっしゃるとおりで、実際にそれ以前の専門委員会の開催時に、「日本の制度は、患者の自己負担だけをみると、諸外国と比較して必ずしも優れているわけではない」という指摘を私からしています。
その時のことを話すと、そもそも海外との比較が必要だと言い出したのは有識者委員の方々だったんです。アメリカは民間保険主導で参考にならないため、私から日本の公的保険制度に近いヨーロッパの例などを出して、例えばフランスの場合は抗がん剤など代替性のない医薬品には患者負担がないことや、ドイツの場合だと年収の2パーセントが支払い上限額に定められていることなどを示したのですが、すると急にその有識者委員の方々が「他国の制度は日本と条件が異なるので単純な比較をできない」と言い出してですね……。
あなたたちが海外と比較しろと言ったから例を出したのに、都合が悪くなるといきなり比較が難しいとおっしゃるのはいったいどういうことなんだと思ったのですが、それを専門委員会の場で言ってしまうとさすがに問題になるので言いませんでした。
西村 このときの様子はオンラインで傍聴していましたが、露骨な前言撤回には失笑しました。専門家の有識者に対して失礼ながら、この人は委員をお辞めになったほうがいいのではないか、とも思いました。
天野 私も違和感をおぼえましたが、ご指摘のように、専門委員会の報告書の細かい文言をすべて指摘しだすと、おそらく会議の間じゅうずっと私が発言している状態になってしまうので、ここだけはさすがに直さなければまずい、という箇所だけに絞って発言をしていました。
だから、西村さんご指摘の部分は文書に残ってしまったし、それ以外にも「制度の不断の改革に取り組んでいかなければならない」という部分が残ってしまったことも、実はけっこう厳しいですよね。「不断の改革」ということはつまり、不断の引き上げをするという意味だとも解釈できますから。それでも、年間上限の新設や多数回該当の据え置きは盛り込んでいただけたので、なんとか最低限の要求は入ったかなという感触でした。
西村 多数回該当の据え置きと年間上限が取りまとめに盛り込まれたのは、厚労省に理解があって「そうだね、入れた方がいいよね」という姿勢だったのか、あるいはしょうがないからいやいや入れたのか、天野さんの感触としてはどうだったんですか?
天野 ここは世の中に誤解されている部分もあるように思うのですが、厚労省は基本的な姿勢として、負担引き上げを積極的にやりたいと思っているわけではないと思います。私たちが話をした官僚の方々の中にも「こんな引き上げはすべきではなかった」などとはっきりおっしゃる方々がいて、皆さんが諸手を挙げて引き上げに賛成しているわけでもないと感じます。
では何が問題になっているのかというと、財政上の圧力です。つまり、多数回該当の据え置きも年間上限の新設も、財務省がうんと言わない限り入りません。今は医療費に関するあらゆるものが負担増のオンパレードですよね。例えば今年度の診療報酬は最終的に本体3.09パーセントのプラス改定になりましたが、財務省が示した最初の案ではマイナス改定だったと聞いています。全国の病院が赤字でどんどん潰れているのに、それぐらい財務省は厳しい姿勢で臨んでいるわけです。
このように、財政上の強い圧力がある中で厚労省としては、「我々は多数回該当の据え置きや年間上限の新設を頑張って勝ち取った」という感覚なのではないかと思います。月額上限の引き上げ幅にしても、前回の引き上げ案と比べると半分に抑えられていますから、厚労省からすれば「財政上の圧力に対してこれだけ頑張っている」というのが、厚労省の気持ちではないかと思います。
西村 そのような本音は、専門委員会の前の打ち合わせなどの際にポロッと出たりするものなんですか?
天野 専門委員会では、厚労省はまったくそういう素振りを出しません。けれども、厚労省の様々なお立場の方々と話をしていると、省内にも頑張っている方がいるのだなとひしひしと感じることはありました。
だから、厚労省は第8回の取りまとめで方向性を決めることまではできたとしても、具体的な細かい金額はおそらく財務省が決めているのだろうと思います。ただ、国会であれだけ問題になって石破首相が一時凍結したので、2024年案と同程度の引き上げが無理なことは財務省も当然わかっていたと思います。とはいえ、霞が関の感覚は我々とのズレはまだまだ大きくて、我々からすれば「破滅的医療支出の水準に達しています」「これ以上の負担増は厳しいです」と示していても、霞が関の予算折衝のプロセスでは、「あらゆるものが負担増となっている中で、高額療養費はむしろ配慮されている」というのが、おそらく政府の本音だと思うんです。
西村 「してやっている」感があるわけですね。
天野 おそらく。ただ、我々が高額療養費の要望活動をしている時には、少なからぬ数の官僚の方々が私たちを応援してくださいました。














