日本の司法でAI活用を阻むのは“紙文化”である
ちなみに海外に目を向けてみると、国ごとの差はあるものの、事件管理や判例検索、判決文のドラフト作成など、蓄積されたデータに対して生成AIを活用し、「裁判官の判断を支える補助ツール」としての導入が進みつつある。
日本でも弁護士の業務効率化ツールとしてAIが使われ始めているものの、裁判所内部での公式のAI活用はゼロに等しいレベルだそうだ。その背景には、日本特有の根強い“紙文化”がある。
「訴状、答弁書、準備書面、判決書など、裁判所の各種書類はいまだに紙なんです。弁護士が書類を送るときも、FAXがいまだに多い。
裁判所には『mints』という、民事裁判の書面をオンラインで提出・受領するシステムが導入されていますが、法廷では紙の記録を見ながら審理するなど、裁判所内部の運用が紙ベースなので、最終的には紙に落とさざるを得ないのです。また、アメリカが戦前から判決データを公開してきたのに比べると、日本はそもそも電子化されている判例のデータ量がケタ違いに少ないのです」
オンライン上に十分な判決データがない以上、AIに司法実務を本格的に学習させることは難しい。とはいえ日本の状況が停滞しているだけということでもない。
2026年5月施行開始予定の「民事裁判手続きのデジタル化」を節目に、司法のデジタル化は大きな転換点を迎え、AI活用も段階的に前進していくと見込まれている。
「まず導入されるのは、事実関係整理の補助でしょう。裁判では、原告と被告それぞれの弁護士が膨大な事実や証拠を提出します。裁判官はそこから争点を抽出し、どこで意見が食い違っているのかを整理しなければならない。実はこの要件の整理こそが裁判において実務上一番大変な作業なのです。そこをAIが手伝ってくれるだけで、裁判官の実務負担は大きく軽減されるでしょう。
次のステップが、判決文の下書きですね。AIに複数の判決案を作成させ、その中から裁判官がもっとも妥当だと考える案を選び、修正や加筆を加えて最終判決に仕上げるような形になるはずです」
AIが人間を裁く。一見するとSFの光景そのものだが、太田教授は「AIが判決を下すところまでいくと思います」と語る。
「判決をパターン化しやすい分野はAIを特に活用しやすい。たとえば簡易裁判所で扱われる60万円以下の少額裁判事案についてですが、まずAIが判決を出し、不服があれば上訴して人間の裁判官が審理する形になるとみています。
交通事故、月額サービスの請求トラブル、敷金返還,代金未払い、個人間金銭貸借などが典型です。こうしたシステムが国内で完全実装されるまでには30年ほどかかると予想していますが…」
ちなみにすでにeBayやAmazonといった通販サービスでは、「オンライン紛争解決(ODR)」によって、商品の配送や品質、請求トラブルといった定型的なトラブルの多くを、オンラインフォームとAI仲裁手続きの仕組みで半自動的に処理しており、AIによるサポートに納得できない人が、カスタマーコールセンターなど、人間によるサポートを受けられる状態になっている。













