「本は届くが活動資金が足りない」という現実
――活動が拡大する一方で、新たな課題も生まれているそうですね。
まさにその通りで、最も大きな課題は「活動資金の不足」です。ありがたいことに寄付していただく本の数は年々増えていますが、本が増えるペースと、それを届けるために必要な活動費が増えるペースは、残念ながら比例していません。
――本が増えれば、それだけコストもかかると。
はい。本を子どもたちに届けるための送料、膨大な数の本を保管・管理するための倉庫費や人件費など、管理コストは年々増加しています。本を寄付いただくのは本当にありがたいのですが、このまま本の寄付だけが増え続けると、活動自体が赤字で立ち行かなくなる危険性もはらんでいます。
――寄付する側は、そこまで想像が及ばないかもしれません。
そうなんです。「本さえ買えば、あとは誰かが届けてくれる」と思われている方がほとんどで、運営費が不可欠だという現実がなかなか伝わっていませんでした。これまでは少し遠慮していた部分もあったのですが、今年からは「本を届けるためには活動資金も必要です」ということを、ポスターなどでもしっかりお伝えするようにしています。
「自分は悪い子だからサンタが来ない」という呪いを解きたい
――活動の根底には、経済格差がもたらす「体験格差」への問題意識があるように感じます。
日本の、特に小さな子どもたちは、クリスマスにプレゼントがもらえないと「自分が悪い子だからサンタさんが来なかったんだ」と思ってしまう傾向があります。一般的に日本の親は「いい子にしていないとサンタさんは来ないよ」と言いがちだからです。これは、子どもにとって一種の「呪い」のようなものだと感じています。
――自分のせいではないのに、自分を責めてしまう。
そうです。友達は当たり前に経験していることを、自分だけができない。そうした経験は、劣等感を子どもに植え付けてしまいます。困窮家庭の親御さんへのアンケートでは、「映画に連れて行ってと子どもに言われるたび、お金がなくて『いつかね』とごまかし続けていたら、いつしか子どもが何も言わなくなった」という、胸が締め付けられるような話も聞きます。
――あきらめる子どもと、あきらめさせるしかない親、という構図ですね。
はい。私たちはブックサンタだけでなく、映画館での鑑賞体験を贈る「シェアシネマ」や、誕生日にケーキを届ける「シェアケーキ」といった活動も行なっています。こうした体験は、人生に一度か二度はあった方が絶対にいい。少しのお金があればできることで、子どもたちがあきらめなくて済むのなら、それを支えたいと思う大人はたくさんいると信じています。
――最後に、ブックサンタの今後の展望についてお聞かせください。
「自分だけの本が欲しい」と願う子どもが声をあげれば、必ず届けられる。そんな社会的なインフラのような存在になりたいと考えています。図書館や学校の図書室で本を読むことはできますが、「自分だけの本」を持つ体験はまったく別物です。私たちは、経済的に厳しい環境にいる子どもを全国で約200万人と推計していますが、そのうちの4分の1にあたる50万人に、クリスマスと誕生日の年2回、本を届けられるようになるのが目標です。
――年間100万冊という規模ですね。
そうです。毎年100万冊の本が安定的に集まり、それをきちんと管理し、必要とする子どもたち一人ひとりに確実に届けられる仕組みを構築していきたい。そのためには、もっと多くの方にこの活動を知ってもらい、応援の輪を広げていく必要があります。一冊の本が、一人の子どもの未来を照らす光になると信じて、これからも活動を続けていきます。
取材・文/集英社オンライン編集部













