「自分だけの本」がもたらした少女の変化

――活動を通じて、特に印象に残っている子どもからの反応はありますか?

たくさんありますが、ある女の子の話は忘れられません。もともと本を読む習慣がほとんどなかった子なのですが、ブックサンタで 「自分だけの本」を手にすると、どこに行くにも持ち歩くほど夢中になったそうです。

――「自分だけの本」「自分が所有している本」というのが特別だったのですね。

はい。1年ほど経ってからお母さんに見せてもらったその本は、すごく大切にしているはずなのに、ボロボロになっていました。毎日外に持ち歩くからです。そして、中には付箋がびっしりと貼られていました。

――どんな本だったのですか?

世界中の女性の偉人、過去から現在まで100人を紹介する本でした。彼女はその本を毎日1人ずつじっくり読んで、「この人みたいになりたい」という憧れの人を見つけたそうです。その方は外交官のような、世界で活躍する職業の人で、それがきっかけで彼女は「私も日本だけでなく世界で活躍できる人になりたい」と、すごく勉強を頑張るようになったと聞きました。

女の子が大切にしている本(写真提供/ブックサンタ)
女の子が大切にしている本(写真提供/ブックサンタ)

――1冊の本が、子どもの未来を変えるきっかけになった。

まさにそうですね。私たちが届けたかったのは、単なるモノとしての本ではなく、そうした体験やきっかけだったのだと改めて感じさせられました。その本は、あまりにもボロボロになっていましたし、私たち団体の手元に置きたいと考えましたので、「新しいものを買いますので、譲ってもらえないですか?」とお願いしてみたのですが、「これがいい」と断られてしまいました。それだけ彼女にとって、かけがえのない宝物になったのだと思います。

「うちの近くでやってない」——活動初期の苦労

――活動は初年度から順調だったのでしょうか。

いえ、最初の数年は本当に大変でした。2017年の初年度は58店舗の書店さんと848冊の寄付から始まりましたが、まず認知度がまったくない。メディアの取材もありませんでした。

――SNSなどでの反響もなかったのですか。

当時は、SNSでこの活動について書いてくれる人は1日に1人もいないような状況でした。たまに投稿があっても、「うちの近くには参加書店がない」「〇〇県には1店舗もないじゃないか」といったネガティブな声が多かったんです。

――活動に対して、厳しい声もあったのですね。

はい。私たちからすれば、初年度から全国58店舗もの書店が協力してくださるだけで本当にありがたいことだったのですが、なかなかそうは受け取ってもらえませんでした。出版社さんにも協力をお願いして回りましたが、ほとんど協力は得られませんでしたし、書店さんからも断られることが多かったです。