高望みさえしなければ就職先はいくらでもあった時代

私はバブル期に社会人生活をスタートさせた。もっとも国立大学教員の収入など地味なものだから、いわゆるバブル期の豪遊などには縁がなかったが、それでも当時、日本社会全体が豊かになり、若手人材が引く手あまたで、高望みさえしなければ就職先はいくらでもあった時代だったことをよく覚えている。

ボーナスも昇給も夢ではなかったし、毎年給料が上がっていけば、いずれマイホームも購入できるだろう。彼女がラインナップした「将来の夢」は、決して非現実的な妄想などではなかったのだ。

だが、今ではそのような人生設計は、多くの若者にとって実現することが難しい〝夢〞である。正社員として就職、結婚、出産といった、かつてなら誰でも得られたライフイベントも、もはや当然のものではなくなっている。その辺りの詳細は、拙著『希望格差社会、それから─幸福に衰退する国の20年』や、『パラサイト難婚社会』に詳しく書いたので、そちらをご参照いただきたい。

私は学生たちにこう語りかけることがある。

「君らのうち4人に3人は結婚しないし、結婚した3組に1人は離婚するだろう」と。

当然、とても嫌がられる。「なんで山田先生は、そうした暗い話ばかりするのか」と。

だが、これは決して私の主観ではなく、統計に裏づけられた〝現実〞の話である。

結婚式のイメージ(写真AC)
結婚式のイメージ(写真AC)

国立社会保障・人口問題研究所の推計(甘めだが)によれば、現在40歳以下の若者の生涯未婚率は、約25%にのぼる(男性約30%、女性約20%)。さらに2024年には婚姻数約48万5千組に対して、離婚件数は約18万6千組。

つまり3組に1組が離婚する計算になる。若い人は「結婚=ゴール」だと思いがちだが、現実の人生は甘くない。「そして2人は幸せに暮らしましたとさ」と童話のようにはいかないのだ。

では、なぜ私はわざわざこんな〝現実〞を若者に突きつけるのか。

繰り返すが、それは彼らが自らの人生を、しっかりと将来のリスクを認識したうえで、歩んでいってほしいからだ。

私は以前から疑問に思っている。なぜ日本の教育では、こうした「リスク」についてきちんと教えないのだろうかと。むやみに恐怖を植えつけるのでもなく、さりとて安易に理想の家族像を語るのでもない。現実を若い世代に伝えることは必要ではないだろうか。