夢と幻覚の区別がつかないアッパラパー人間に

病院に到着するとすぐに鎮静剤をぶちこまれ、ようやく深い眠りにつくことができた。痛みで3日間ほとんど眠れなかったので心の底からほっとした。眠りに落ちる直前、医師から「マジでもう酒やめな。死ぬよ」と言われたことを覚えている。

この後しばらく、僕は薬の影響などでかなり意識や記憶がぐちゃぐちゃになっている。端的に言うとせん妄状態――要するに夢と幻覚の区別がつかないアッパラパー人間になった。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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そのあたりは後述するとして、いったん転院後の僕の状態について書こうと思う。

ICUに運ばれた直後、妻は救急救命医から「非常に危ない状態で死ぬ可能性もある。入院は1カ月じゃ済まない。半年くらい入院する人もいる病気です」と言われたそうだ。さすがに妻もそこまでとは思っておらず、かなりショックを受けたという。

そんなことはなんにも知らない僕はまだ「来月には退院して年末年始はちょっとくらいお酒飲めるようになるかな」などと考えていた。

とにかく痛みがヤバいため、鎮静剤を使ってかなりの時間を眠って過ごした。痛みで起きてしまう時間もあったが、ICUでは24時間体制で看護師が管理をしてくれており、耐え切れなくなってナースコールをするとめちゃめちゃ親身になってなんとかしてくれようとする。「誰かが見ていてくれる」「なんらかの処置をしてくれる」ということがものすごく精神的な安心感につながった。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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ICUに入って数日後、もはや何時に寝て何時に起きているのか自分でもわからなくなっていたが、目を覚ますと病室にたくさんの寄せ書きや写真が飾ってあった。

オンライン寄せ書きサービスで作った色紙には約40人のメッセージがびっしりと印刷されており、ボードには僕も忘れていたような10年以上前の写真も貼られている。妻が知らないはずの懐かしい名前や姿があることに驚いた。

既に管まみれで身動きが取れず、口に呼吸器を挿されて会話もできなくなってしまった僕を励まそうと、妻が家族や友人に声をかけて大急ぎで作ってくれたものだという。

面会謝絶のため顔を見ることも声を聞くこともできない状態だったが、その気持ちが何よりも励みになった。

文/たろちん

『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』(太田出版)
たろちん (著)
『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』(太田出版)
2025/10/16
1,980円(税込)
202ページ
ISBN: 978-4778340971

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「人生で一番好きなゲーム実況者が気づいたら逝きかけてました」

みなさんにはどうか僕を反面教師として死ぬまで元気に酒を飲み続けてほしい――

突如膵臓が爆発、転院に次ぐ転院、2カ月以上続く絶飲絶食、院内大量殺人事件に巻き込まれる(という幻覚)、お腹の上に出しっ放しになった腸、脳出血で昏睡状態へ……波乱万丈の闘病生活を経験した酔っ払いゲーム実況者・たろちんによる“アル中”エッセイ。

膵臓の一部が壊死し、腎臓や肝臓といった様々な臓器不全を引き起こすなど致死率の高い疾患といわれる重症急性膵炎。「生きるために一生懸命酒を飲んでいた」というたろちんが、ジェットコースターのように次々とハプニングが発生する入院生活と、そこに至るまでの飲酒生活、そして退院後に待ち受けていたさらなる困難を、痛快でコミカルなタッチで綴る。

『はぐちさん』作者・くらっぺによる描き下ろし8コマ漫画も収録!

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