夢と幻覚の区別がつかないアッパラパー人間に
病院に到着するとすぐに鎮静剤をぶちこまれ、ようやく深い眠りにつくことができた。痛みで3日間ほとんど眠れなかったので心の底からほっとした。眠りに落ちる直前、医師から「マジでもう酒やめな。死ぬよ」と言われたことを覚えている。
この後しばらく、僕は薬の影響などでかなり意識や記憶がぐちゃぐちゃになっている。端的に言うとせん妄状態――要するに夢と幻覚の区別がつかないアッパラパー人間になった。
そのあたりは後述するとして、いったん転院後の僕の状態について書こうと思う。
ICUに運ばれた直後、妻は救急救命医から「非常に危ない状態で死ぬ可能性もある。入院は1カ月じゃ済まない。半年くらい入院する人もいる病気です」と言われたそうだ。さすがに妻もそこまでとは思っておらず、かなりショックを受けたという。
そんなことはなんにも知らない僕はまだ「来月には退院して年末年始はちょっとくらいお酒飲めるようになるかな」などと考えていた。
とにかく痛みがヤバいため、鎮静剤を使ってかなりの時間を眠って過ごした。痛みで起きてしまう時間もあったが、ICUでは24時間体制で看護師が管理をしてくれており、耐え切れなくなってナースコールをするとめちゃめちゃ親身になってなんとかしてくれようとする。「誰かが見ていてくれる」「なんらかの処置をしてくれる」ということがものすごく精神的な安心感につながった。
ICUに入って数日後、もはや何時に寝て何時に起きているのか自分でもわからなくなっていたが、目を覚ますと病室にたくさんの寄せ書きや写真が飾ってあった。
オンライン寄せ書きサービスで作った色紙には約40人のメッセージがびっしりと印刷されており、ボードには僕も忘れていたような10年以上前の写真も貼られている。妻が知らないはずの懐かしい名前や姿があることに驚いた。
既に管まみれで身動きが取れず、口に呼吸器を挿されて会話もできなくなってしまった僕を励まそうと、妻が家族や友人に声をかけて大急ぎで作ってくれたものだという。
面会謝絶のため顔を見ることも声を聞くこともできない状態だったが、その気持ちが何よりも励みになった。
文/たろちん













