限界は少しずつ外す

走ることは一石三鳥のトレーニングですが、「ランニングを始めたけれど続かなかった」という人もいると思います。

たいていの場合、そういう方は無理な時間設定をしているはずです。「これから毎日40分走ろう」とか、「1時間走ろう」とか、最初から高い目標を立てているのではないでしょうか? 僕の場合は毎日ランニングが続いているし、走りたくて走っているのですが、その状態になるまでがなかなか難しいのです。

ですから、これから走ろうと思っている方は、まずは5分でも10分でも「歩く」ところから始めてください。毎日10分歩くようになると、「あと5分歩いてみようかな」といった気持ちが芽生えてきます。10分歩くのが普通のことになってきます。まずここで、最初の限界が外せています。

ただし焦りは禁物。ここから時間を一気に30分に延ばしたり、いきなりランニングに変更すると、無理が出て、三日坊主で終わる可能性が大です。「ああ、明日も走らないといけない」となってしまうと、途端に続かなくなります。

僕も今、朝晩30分ずつ走っていますが、まずは朝晩20分ずつ走るところから始めました。毎日走っているうちに、まず「20分ならいけるだろう」という手ごたえが生まれ、時に「30分いこうかな」となり、また20分に戻すなど様子を見ながら、コンスタントに30分走れるようになりました。

たまに30分以上走る日もありますが、やはり継続することを考えると、体に負担がかかるので、朝晩30分ずつにしています。これが今の僕にとっての、ベストの時間設定です。「一日10分歩く」など、自分にとって余裕のある時間から始めて、体と相談しながら、時間を5分延ばしたり、たまには走ってみたりと、少しずつ限界を外していく。「疲れない時間や距離を設定する」ことが、ランニングを毎日続けるコツだと思います。

そして「今日は走りたくない」と思う日は、無理にやらない。思い切って休む。一度休むと、「また頑張らないと駄目だ」という気持ちが出てくるので、それが「やる気」となるのです。

そして季節や天候に合わせて、暑いときは日差し対策や水分補給を行ない、寒いときには防寒対策を行なう工夫も必要です。海外遠征で、フィンランドなどに行くと、マイナス30度を超える寒さになります。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
写真はイメージです 写真/Shutterstock
すべての画像を見る

僕の出身地である北海道の下川町も、同じくらいの寒さなので驚きはしないのですが、僕は寒いのは大嫌いです。ですから寒冷地では、長袖のインナーに長いスパッツ、サウナスーツの上に厚手のウィンドブレーカー、さらに厚手のスキーウェアと、汗の出るような重ね着をして走っています。防寒対策を万全にすれば、氷点下の朝ランも寒くありません。

走ることは楽しく、気持ちのよいことで、我慢比べではありません。無理のない範囲で、快適な環境を整えることができれば、「走るのは苦手」と思っていた人でも、毎日走れるようになります。

文/葛西紀明

限界を外す レジェンドが教える「負けない心と体」の作り方
葛西 紀明
限界を外す レジェンドが教える「負けない心と体」の作り方
2025年9月17日発売
1,067円(税込)
新書判/224ページ
ISBN: 978-4-08-721379-9

50代に入っても国内大会で連続優勝し、世界の舞台に返り咲いたスキージャンパー葛西紀明。8度の五輪出場を果たし「レジェンド」と呼ばれる男は、ランニングをはじめとした練習法、習慣を工夫することで心技体を整え、現役選手として年齢の壁を超え続けている。
「負けたくない」気持ちを原動力に、妥協せず積み重ねた努力とは? 自らの限界を外してきた軌跡、そして年齢を重ねても成果を出し、挑戦し続けるための思考法、セルフマネジメントの極意を語る。

◆目次◆
第1章 限界を外すことで進化してきた
第2章 どん底からの復活
第3章 限界を超すメンタルをつくる
第4章 限界を外す体のつくり方

◆主な内容◆
●4年ぶりの復活
●51歳で見直した減量とランニング
●ランニングは一石三鳥のトレーニング
●限界は少しずつ外す
●50歳を超えても進化している理由
●「負けたくない」という気持ちが原動力
●コントロールできるのは自分だけ
●三日坊主にならないために
●コンフォートゾーンを超える
●若い選手から刺激をもらう
●20年かけて完成したジャンプ
●逆境こそがチャンス
●53歳の練習メニュー

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon