猥雑で魅力あふれる是枝・韓国ワールドに一気に引き込まれるオープニング

映画『ベイビー・ブローカー』は、クリーニング店を営む男(ソン・ガンホ)と民間団体で働く男(カン・ドンウォン)のふたりが、違法な方法でより高額な養子縁組をまとめようと、赤ん坊を連れて旅をし、そこに生みの母と後を追うふたりの女性刑事が加わるロードムービーだ。

冒頭は、韓国ドラマではおなじみの、電信柱に電線が張り巡らされ、古びた街灯と微妙な幅のゆるやかな坂道が続くであろう街角が描写される。さらに土砂降りの雨音の中、俳優ソン・ガンホと監督の表現のキャッチボールがいつ始まるのか、緊張感が走り画面の隅々まで目が離せない。
息を飲む私の前でソン・ガンホがするりと物語に入り込み、芝居を始める。時に、そのスピードに追いつけず、戸惑い、苛立ち、変化を理解できず腹を立て、それから笑い出し、泣きそうになった。

彼の芝居を追い掛けながら、以前読んだソン・ガンホの記者会見やインタビューでの言葉をいくつも思い出していた。そのことに触れる前にまず、是枝裕和監督について考察したい。