韓国で最も愛されている俳優ソン・ガンホ
さて、是枝監督が本作の主役にと切望した、韓国で最も有名なソン・ガンホという俳優は、そもそもどんな人物なのだろうか。
ソン・ガンホは1967年1月17日生まれの55歳。24歳からさまざまな地方劇団の舞台に立つも長く芽が出ず、600万人以上を動員した大ヒット作『シュリ』(1999)で初めて、一般の観客にも認知されるようになった。
その後は順調にキャリアを重ね、ガンホの人気と実力を不動のものにした作品が、日本でも大ヒットした2003年の『殺人の追憶』である。さらに、韓国最大の悲劇と言われる光州事件での実話を元にし、アカデミー外国語映画賞に選出された『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)で国際的にも高く評価されるようになった。
2019年の『パラサイト 半地下の家族』では、世界各国の映画祭で主演男優賞を受賞。さらに2020年ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ「21世紀の最も偉大な俳優25人」では、アジア人俳優として最高の6位に選ばれている。
韓国では、ソン・ガンホを知らない人はいないともいえる絶対的な人気を誇り、国内外で数えきれないほど演技賞を受賞している、国民的名優なのだ。
一男一女の父で愛妻家。息子は元水原サムソンブルーウィングス所属の人気サッカー選手のソン・ジュンピョンだ。
俳優・井之脇海へのアドバイス
名優・ガンホの人間像を深く知るため、雑誌『ELLE JAPAN』でソン・ガンホと対談した俳優・井之脇海に話を聞いた。
「僕はこれからも俳優を続けたいです。そのためのアドバイスを下さい」と問う井之脇に、ガンホはこう答えたという。
「演技が面白くて仕方がないという俳優もいるだろうが僕は、やればやるほど“難しい”。演じたくないと思うことがある。理由を考えると“演技に自信がない”からかなあ。『パラサイト 半地下の家族』の中で僕が演じたギテクが息子に言った“ノープラン”、“将来の目標や社会的な成功の青写真を描くな”という台詞。誤解を恐れずに言うならば、俳優という仕事もそうあるべきで、“ノープラン”で状況に対して心を開いておく。すると心が豊かになり、よりよい俳優人生が送れると思うよ」
井之脇から話を聞いている途中、唐突に、彼に「ソン・ガンホはどんな色の人でしたか」と質問すると、一瞬考えたがすぐに、井之脇は「紫色のイメージ」と答えてくれた。
隣に座っていたマネージャーが、嬉しそうにこう付け加えた。
「“こんなに顔の小さい青年と一緒に写真を撮るのは恥ずかしい”と笑い、井之脇の年齢を聞いて“24歳? 息子と同じ歳だね。僕の24歳は演劇を始めた頃で、話なんてこれっぽっちもできないバカだった。そう考えると君は素晴らしいね”と、井之脇は褒めてもらいました」
この発言に、家族を愛し人を愛し、若者に心を寄せるフェアで豊かなガンホの人間性を深く感じた。そして、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を授賞した際、挨拶の最後に、「2階で見ている家族も喜んでくれているでしょう」と嬉しそうに上を見上げたガンホの、優しい夫であり父親である笑顔を思い出した。
「捨てるなら産むな」
カンヌ国際映画祭の賞の結果が発表される前日。NHKのインタビューで是枝監督はこう語っている。「映画の冒頭で刑事が“捨てるなら生むな”と、ぼそっとつぶやく。たぶん映画を見始める前に多くの方たちもそのように思うのでは。そんなみなさんの考えを、映画を2時間見た後にどのくらい揺さぶれるかが今回、自分が勝負したところだと思う」
是枝監督の演出、そしてソン・ガンホの演技にあなたは何を思うだろう?
自分の中の善悪を強烈に問われる最新作『ベイビー・ブローカー』は必見だ。
引用元
https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/a30415021/cfea-inowaki-songkangho-200109/
取材・文/小林禮子 協力/井之脇海
写真 ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
第75回カンヌ国際映画祭
最優秀男優賞(ソン・ガンホ)/エキュメニカル審査員賞受賞
『ベイビー・ブローカー』(2022)上映時間:2時間10分/韓国
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊がいないことに気づき警察に通報しようとしたため、ふたりは仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが…。赤ちゃんポストで出会った彼らの、特別な旅が始まるーー。
6/24(金)より
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
■監督・脚本・編集:是枝裕和
■出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ペ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン
■製作:CJ ENM ■制作:ZIP CINEMA ■制作協力:分福
■提供:ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro. ■配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/babybroker/