ギャンブル化する投資の罠
投資はあくまでも「手段」であって「目的」ではない。この基本的な認識を忘れてしまうと、さまざまな問題が生じる。
まず、投資を目的と考えてしまうと、定期的にやってくる経済危機や○○ショックのような市場暴落の際に、損失を被ると目的が達成できず「失敗した」と必要以上に落ち込み、精神的に参ってしまう。私も2008年のリーマン・ショックでポートフォリオが50%近く下落したとき、ブログのコメント欄で「水瀬さんのせいで大損した」「もう投資なんて二度とやらない」といった悲痛な声をたくさん見た。これらの人たちは、投資で損をすることイコール人生の失敗だと捉えてしまっていたのだろう。
一方、投資がお金を増やす手段であると正しく認識していれば、投資で損失を被ったとしても、「しばらく頑張って働くか」と開き直り、仕事に精を出すことで余剰資金をまた稼げばよいだけと考えることができる。「少し節約してみるか」と生活費を下げる方向で頑張ってみるという方向だってあるだろう。投資は人生の選択肢の一つに過ぎず、それがダメでも他の道があると思えるのだ。
これは、受験にたとえるとわかりやすいかもしれない。第一志望の大学に落ちたとき、「受験に失敗した。人生終わりだ」と考える人と、「第一志望はダメだったけど、第二志望の大学で頑張ろう」と考える人では、その後の人生が大きく変わってくる。投資も同じで、一つの手段に過度に依存せず、バランス良く人生設計を考えることが大切なのだ。
また、投資が目的化している人の典型例として、売買によるスリルが楽しくて取り憑かれてしまう人もいる。株価が上下するたびに一喜一憂し、チャートを見ながら興奮している状態だ。私も若いころのトイレ・トレーダー時代は、この状態に近かった。
行動経済学の研究によると、投資における売買行為は脳内でドーパミンの分泌を促し、ギャンブルと似たような快感をもたらすことがわかっている。特に、予想が当たって利益を得たときの快感は強烈で、「もっと大きく勝ちたい」という欲求を生み出す。
売買そのものが楽しくなってしまい、やめられなくなってしまう。ひどくなると、パチンコなどのギャンブル依存症に近い状態になってしまう人もいる。デイトレーダーの中には、勝っているときも負けているときも、とにかく売買を続けていないと落ち着かないという人がいる。これは明らかに投資が目的化してしまった状態だ。
ギャンブル依存症の治療を専門とする医師によると、投資依存症の患者も近年増加傾向にあるという。症状としては、投資のことが頭から離れない、投資資金を確保するために借金をする、家族や仕事よりも投資を優先するなど、ギャンブル依存症と酷似している。
このような状態に陥らないためには、投資を始める前に設定していた目的を定期的に見直すことが重要だ。「なぜ投資をするのか」「投資で何を実現したいのか」を時々ふり返り、投資はあくまでその目的を達成するためのひとつの手段であることを忘れないようにしたい。
お金を増やすこと以外の価値を見つけることも大切だ。ウォーレン・バフェットは「お金そのものに興味はない。お金を通じて新たな事業を創造することに興味がある」と述べている。また、マザー・テレサは、「お金は大切だが、お金よりも大切なものがある。それは人への愛だ」という言葉を残している。
私自身も、資産が1億円を超えたころから、お金を増やすこと自体よりも、その資産によって得られる「自由」や「安心感」の方に価値を感じるようになった。お金があることで、家族の健康問題や仕事のストレスに対してよりよい選択肢を選べるようになった。これこそが、投資によって得られる本当の価値なのかもしれない。
繰り返しになるが、投資はあくまでも「手段」であって「目的」ではない。この当たり前のことを、ゆめゆめお忘れなく。投資の成功とは、単にお金を増やすことではなく、自分らしい人生を送るための選択肢を広げることなのだ。
文/水瀬ケンイチ