胡蝶しのぶの本心に触れた場面

作品のなかで最も印象に残ってるセリフは? と質問すると「たくさんあるから」と微笑みながら頭を抱える。絞り出してくれたのは、炭治郎とのシーンだった。

「炭治郎君と屋根の上で話すシーンがすごく好きで。『私はいつも怒っているかもしれない』と告白するところは、ハッとしました。作品をご覧になってる皆さんもあのシーンで、しのぶさんの心の核の部分というか、深層心理に触れたような感覚になる瞬間だと思っています」

胡蝶しのぶの声優を担当する早見沙織 撮影/齋藤周造
胡蝶しのぶの声優を担当する早見沙織 撮影/齋藤周造

『鬼に最愛の姉を惨殺された時から 鬼に大切な人を奪われた人々の涙を見るたびに 絶望の叫びを聞くたびに 私の中には怒りが蓄積され続け 膨らんでいく』この独白のようなセリフは早見自身にも強烈なインパクトを植えつけた。

「周りの人に対して、姉のようにすごく穏やかですし、落ち着いて冷静に状況も判断できる。強くて頼もしい胡蝶しのぶを、あの一言で覆されるというか。しのぶさんの怒りはあの時からずっと変わらないのだなと。あれは炭治郎君でないと、気づけなかったかもしれません」

胡蝶しのぶの中でうずまき続けてきた「感情」の部分に思いを馳せる。

「その後に『だけど少し…疲れまして』と話します。 胡蝶しのぶの、不器用だけど逃げないという生き様の中で、少しだけ見せる本音の疲労感のようなものに触れたのが印象的でした。その蓄積された感情が『無限城編』でも、さらけ出されていきます」

そんな早見が「鬼滅の刃」との出会いで変化した価値観について言葉を選びながら話した。

「鬼滅の刃では『繋いでいく』というのがすごく大切な鍵なのかなと思います。想いや意思や願い……。鬼滅の刃ではそういった感情がとても力を発揮しています。キャラクターひとりひとりの感情が作品の結末に繋がる鍵となっていく。この作品に関わったことで、想いを渡し合うということをアフレコの時に意識するようになりました」

アフレコは、声優同士が互いの演技に影響を受けながら感情や表現を紡いでいく、まさに“会話”によってつくられる作業だという。

「ただ、鬼滅の刃は、その渡し合うというのが顕著に大事にされる作品です。姉さんの想いを自分が受け継ぐ。それをカナヲだったり炭治郎君という人の存在に繋いでいく。そういった個ではない感覚。この作品に関わるとすごく気づかされますね。何でもそうだと思うのですが、1人だけではできないと気づかされます」

胡蝶しのぶに秘められた強さと、作品の鍵の一つとなっている“想いを繋ぐ”というテーマ。その両方に触れることで、早見沙織自身もまた、大切ななにかを受け取り、次へと手渡しているのかもしれない。

劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来 配給:東宝・アニプレックス (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable 7月18日(金)全国公開中
劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来 配給:東宝・アニプレックス (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable 7月18日(金)全国公開中
胡蝶しのぶ (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
胡蝶しのぶ (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
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 取材・文/桃沢もちこ 撮影/齋藤周造