常に見られる立場の教師は本音を言えない職業?
「実習前は、“先生って社会を知らない人たち”という先入観があって、どこかネガティブなイメージでした」
そう語るのは、大学3年次に母校の私立高校で教育実習を経験したダイキさん(仮名・20代)だ。担当教科は保健体育。実習期間中、最も負担に感じたのは授業準備だったという。
「1コマ40分の授業に対して、およそ3時間をかけてカリキュラムを組み立てる感じでしたね。朝7時には登校し、授業、部活動、翌日の準備に追われて、帰宅は22時を過ぎることも珍しくなかったです。
体育の授業では、器具の準備から片付けまですべて自分で行いますし、その合間に作ったカリキュラムのチェックも受けなければいけない。体力的にも精神的にも余裕がありませんでした」
そんな実習のなかで、印象に残っているのは『本音を封じ込めて行動し続けることの苦しさ』だったそうだ。
「生徒の進路相談においても、“現実”を率直に伝えることができない場面がありました。『頑張ってね』が基本スタンスで、厳しい現実をそのまま伝えることには慎重になる必要がある。私立校ということもあり、生徒が“お客様”という意識で扱われている現実も強く感じました。常に気を張り、見られている意識を持ち続けなければならず、気が抜ける瞬間は一度もありませんでしたし、本心を言えず、まるで嘘をついているような感覚に陥ることもありました」
SNSで話題になった「1年も続けられないと思います」という言葉については、実習中と現在とで見解が変わったという。
「実習当時の自分であれば、間違いなく共感していたと思います。あまりの大変さに“これを毎日続けるのは無理だ”と感じていました。しかし実際に社会に出て働いてみると、どんな仕事にも大変さはあると実感するようになったので、その実習生の言葉に完全に同意することは難しいです」
――教育実習を経て「教師になるのは無理かもしれない」と感じる学生がいる一方で、現場に立ったからこそ教師という仕事のやりがいや尊さを知ったという声もある。だが共通して言えるのは、現在の教職の現場が想像以上に過酷であり、同時に大きな責任と覚悟を求められる仕事だということだ。
取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)