「恩返しがしたいですね」
PR案件とは、企業がインフルエンサーやクリエイターに自社商品を宣伝してもらうマーケティング手法。
依頼を受けてPR動画などを投稿すれば、報酬が発生する。『ずっと若くいたい』を改めて見直すと、ユニクロやネスレなど大手企業からのPR案件もある。ただそれぞれの動画は広告感以上に、アキさんの荒唐無稽な挑戦動画となっている点はさすがだ。
そんなアキさんの抜擢理由を尋ねると、
「最初、エキストラ派遣会社から何人分かの資料をいただいたんですが、アキさんの美貌がズバ抜けていたんですよ。全員一致で即、決定。
撮影でも、僕らが『こういうことをやりたいけど、NGなら言ってください』と確認するんですが、アキさんは『全然大丈夫。これのどこが恥ずかしいの?』と逆質問してくれるくらい。どんなことにも抵抗感なく、楽しんでくれる。そんなアキさんだから、『ずっと若くいたい』はここまでうやってこれてるんだと思います」
さらに、オープンリーチのマーケティング責任者、藤原康太さんもこう続ける。
「先日、有名TikTokerとコラボしたんですが、アキさんはその方をご存知なく…(笑)。おかげで肩に力が入らない状態で撮影に臨めました。緊張していると普段通りの力って発揮できなかったりするじゃないですか?
僕達が緊張している時でも、アキさんは心穏やかでいつも通り。そういった部分で、人生の先輩の余裕を感じますし、助けられてます。
それにTikTokをやっている人はみんな“有名になりたい”“儲けたい”という気持ちがあるものですが、アキさんにはギラギラしたものが一切ない。見ている人にもそれが伝わるからこそ、爆発的人気コンテンツになったのかもしれないです」
今後、『ずっと若くいたい』はどんなビジョンを描いているのか?
「“初見”ってすごく強いんですが、やっぱり半年くらいで、見る人には慣れや飽きが出てくるんですよね。『おばあちゃんがこんなことをするのか!』という驚きから、『この人はこういうことをする人』という見方に変わる。だから、また新しい見せ方をしたいと思っています。
いつか『TikTok Awards Japan』のありとあらゆる部門にノミネートされたいですね」(舟橋大貴さん、以下同)
彼らとアキさんは頷きながら、挑み続けること、上を目指すことをやめない。さらに、それと同等クラスの願いがひとつあるという。
「お世話になっているアキさんへの恩返しがしたいですね。アキさんに『やりたいことはないですか?』って聞いても『特にないのよ』とおっしゃるんです。でも唯一、目の色を変えるのがビール(笑)。76歳なのに、1日に6缶飲むほど愛しているそうで。
制作と演者って関係だけど、僕たちがこうやって仕事ができているのは間違いなくアキさんのおかげ。アキさんが心からやりたいと思えるような案件を僕たちが引っ張ってくる。だって、美味しそうにビール飲んでるアキさんの顔見たいじゃないですか(笑)」
そう言って目を合わせて笑い合った若者と老女。彼らが生み出したものはバズや収益だけじゃない。単なるビジネスパートーナーとは言えないような心のつながりが間違いなくそこにはあった。
取材・文/池谷百合子 撮影/齋藤周造