開店初日に訪れた由美かおるさん
入社したのは、1号店が営業を始める1か月前の71年6月。すぐに研修が始まった。場所は、東京都大田区に会社が開設した訓練施設「ハンバーガー大学」。店で使う調理機器がそろえられていた。
創業した藤田田(でん)社長の言葉からは、事業にかける思いが伝わってきた。「日本では、新しい外来文化の流行は銀座から始まる」と、1号店の場所にこだわった理由を説明。日本人向けに味付けを変えるべきだとの意見には、「一切変えたらあかん。本物を食べさせるんや」と反対した。
その社長から銀座店の店長の辞令を受け、驚いた。「私でいいのか。大丈夫かな」
オープンには難題が待ち受けていた。1階を間借りする銀座三越は月曜日が定休日。改装にかけられるのは、日曜日に店が閉まってから、次に開店する火曜日の朝までのわずか39時間だった。
前例のない工事のヒントになったのは、演劇などで短い幕あいに舞台装置を素早く交換する大道具の動き。工事に携わる70人は、別の場所で実際に店舗を組み立てては壊すという予行演習を3回も繰り返した。
それでもアクシデントが起きる。「ガシャーン」。開店前日の深夜、「Mマーク」の看板が落ちて壊れた。あとで開店予定だった店舗の看板を持ち込み、何とか開店時間に間に合った。
ほぼ徹夜で迎えたからなのか、初日の記憶はあまりない。
俳優の由美かおるさんが訪れたことも気付かなかった。由美さんは初めて見る食べ物を手にとると、まじまじと見つめてから口に運んだ。
「ジューシーでおいしかった。今でも小腹がすいた時にいただいていますよ」と笑顔で語る。