実は学校の授業用に作られた
……と、柳田との半世紀を振り返ってから、最初の『桃ばあ』に話を戻せば、作中の「理科雄先生」がリアル柳田と重なって見える。いや、人格者にすら見える。森ゆきえ先生は「理科雄先生をどんなにひどく描いても、空想科学研究所からNGが出ないのでどうしようかと思いました」と言われていたけど、NGなんてとんでもない。むしろ、こんなによく描いていただいて……。
そして実はこの本、経済産業省の「未来の教室 STEAMライブラリー」に空想科学研究所が納品した「学校授業用のコンテンツ」がベースになっている。テーマは「昔話の疑問を科学的に考えると、お話はどう変わるか?」。小学校の「総合的な学習の時間」などで、実際に授業をしてもらうことを想定した教材だ。
これに対して、集英社・児童書編集部の吉添理恵子編集長から「学習まんがにできないでしょうか」とご提案いただいた。初めはどんなモノになるのかわからず躊躇したが、森先生は「天才か!」と思うようなセンスを発揮され、担当の井上幸さんには『桃ばあ』という思い切った書名をつけていただいて、まさか学校の授業用コンテンツが元になってるとは思えない本となった。が、もちろんマジメでかなり役立つ学習まんがである。
この本をいちばん喜んだのは柳田で、「また一歩、学習の現場に近づいた」などと言っている。森先生や編集部の方々にも支えられたおかげで、大きく道を踏み外すことなく、まんがの合間にちょいちょい挟まれる学習解説を懸命に書いていた。これこそ理想的な「わが道」であり、素敵な出会いがあったからこそ道が開けたのだ。関わったすべての人に感謝したい。
文/近藤隆史(空想科学研究所所長)
近藤隆史●宝島社の編集者だった1996年に『空想科学読本』を企画。1999年、メディアファクトリーに移るタイミングで、空想科学研究所を設立。KADOKAWAを経て、2015年から空想科学研究所の代表取締役所長に専念。