強い覚悟を持って最後の大舞台に挑んだ大瀧詠一
久しぶりのステージに上がったはっぴいえんどのライブは、大瀧詠一のこのひと言から始まった。
「はっぴいえんどです」
それははっぴいえんどがライブ活動をしていた頃、ステージで唯一、大瀧が発する言葉だった。手短に挨拶を済ませて演奏に集中する、というのがこのバンドのスタイルだった。
大瀧はコンサート後の感想でこう話している。
「僕は歌よりも何よりも、“はっぴいえんどです”というひと言に命をかけて、数ヶ月間準備をしたということが一番印象に残っています」
大瀧は、1日だけ再結成したはっぴいえんどを最後に、表立った音楽活動を休止した。その理由について、大瀧は26年後に次のように明かした。
「僕は1985年に、それまで続けてきた音楽活動を一旦休止したんだけど、そのとき自分にとって音楽は無ければ無くてもいいなと思った。プライオリティーが下がったんだ。はっぴいえんどを始めた1970年から85年までは音楽が一番だった。だから音楽をやってきた。で、85年からの一番のプライオリティーは、命になった」

「はっぴいえんどです」と発するひと言に“命をかけた”という大瀧の言葉は、文字通りの意味であり、それほどの強い覚悟を持って最後の大舞台に挑んだことが伺える。
大瀧は国立競技場で実現したはっぴいえんどの再結成を、自身の音楽活動を休止するための、別れの場として選んだのかもしれない。
文/TAP the POP
参考・引用
・「対談 亀渕昭信×大瀧詠一3.11の前と同じようにできるかどうか」
・「オールナイト・ニッポンSPECIAL 〜俺たちがはっぴいえんどだ!」(1985年9月4日ニッポン放送)