はっぴいえんど再結成の裏側
亀渕は、「All Together Now」のチーフ・プロデューサーとして、出演してくれるミュージシャンを集めようと奔走していた。そしてイベントを成功させるために、是非とも大瀧詠一に出演してほしいと考え、福生にある自宅を訪ねた。
ところが「当分ライブはやりたくない」と、あっさり断られてしまう。
その日の夜、大瀧が自宅スタジオを掃除していて見つけたのは、はっぴいえんどの昔のカセットテープだった。テープを聴いた大瀧は松本のことが気になって、久しぶりに電話をかけて話をしてみた。
大瀧との会話で細野の名前が出たことから、今度は松本が細野に電話をかけてみた。すると、久しぶりに渋谷のカフェバーで会おうということになった。
それを聞いた大瀧も加わることになり、3人は久々に深夜のカフェバーに集まった。近況についてあれこれと話しているうちに、亀渕から相談された国立競技場でのイベントの話になる。
「そのイベントのことを“ニューミュージックのお葬式”だと悪口言ってるやつもいるらしいんだよ。どうせお葬式なら、逆に俺たちが出てっても面白いかもね」
「はっぴいえんどなんて、今の客は知らないだろうな」
「いっそのこと新人グループだと嘘をついてステージに上がろうか」
冗談を交えながら話は弾んで、はっぴいえんどの再結成とイベントへの出演に対して、3人は前向きに考えるようになったのだ。
しかし、松本にはひとつの不安があった。はっぴいえんどの解散以降、10年以上ドラムを叩いていなかったのだ。
翌日、松本のもとに鈴木茂から電話がかかってきた。大瀧か細野から再結成の話を聞いたのかと思ったら、そうではなかった。
「たまには松本さんのところに遊び行きたいなと思って、電話したんだけど」
あまりのタイミングの良さに松本は運命的なものを感じ、その場で再結成の話をすると、鈴木は大賛成と喜んだ。こうして松本の心も固まり、はっぴいえんどは1日だけ再結成することが決まった。
多忙な日々を送る4人。誰か1人でも電話がつながらなければ、再結成はなかったかもしれない。スマホやSNSなどない時代。それはまさにいくつもの偶然が重なって生まれた奇跡だった。