パラダイムシフトが起きていることに気づかぬ財務省と日銀
当然ながら、今後さらに円安が加速するなら、インフレ圧力が高まる。
円安を止めようとして利上げに踏み切ると、どうなるのか?今度はそれで景気が滞るのではないか。そう政府側は考えているはずだ。
いずれにしても、トラップが待ち受けている。
利上げをしたらしたで、今度は利払いが大きいから日本政府としても嫌だし、日銀としても嫌だ。では彼らはなぜこれまで何の対策も打たなかったのか。もしくは打とうとしなかったのか?彼らが無能だからではない。単純に彼らは〝パラダイムシフト〟が起きていることに気づいていない。それだけなのだ。
つまり、いまだに彼らは日本のインフレが一時的なものだと思い込んでいるのだ。米国のインフレについても。
おそらく今回も米国経済が減速してきて、今年はFRBが利下げをするから、日本はたいして利上げをしなくても現下の円安は収まって1ドル=150円を大きく超えることはないと高を括っていた。
財務省と日銀は国策としての円安を願ってやまない。だから円安になったのは願ったり叶ったりだったが、1ドル=160円を超えたらパニックになって、介入せざるを得なくなった。残念ながら、そのツケは国民に回ってくる。
今のところ為替は落ち着いてはいるが、もし日銀と財務省が為替のコントロールを失って、1ドル=200円にでもなれば、われわれはなおさらに苦しくなる。海外には行けなくなるし、海外から来ているモノは高くて手が出せなくなる。
日本は主要エネルギーの95%を海外からの輸入に頼っており、食料に関しても60%以上を海外に依存している。当然ながら、円安は食料品の値上げを招くことになる。2024年4月あたりから、輸入肉と国産肉の価格差がなくなっているとの話を聞いたが、そこまで円安が進んでいるのかと改めて思った次第である。
ガソリンはどうか?原油価格は大して上がっていないのに円安の影響を受けて、価格が上昇している。
もう一つの懸念材料は、新冷戦状態のなかの地政学的リスクについてである。新冷戦とは常に〝有事〟に近いような状況をつくってしまう。これは当然ながら、供給懸念が生まれることから、ドル高とコモディティ高を招く。
これからは毎年、モノの価格が上がるインフレが続くと、われわれは覚悟すべきだ。われわれはインフレ時代に入ったのだと、しっかりとパラダイムシフトをしてほしい。
だが、コロナ後の世界経済がこんなに激しいインフレに見舞われるとは、誰も想像していなかった。ただ個人的には、例えインフレになったとしても、3%程度のマイルドなインフレに収まれば、日本にとってそう悪くはないだろうと思っている。長年続いたデフレマインドから脱却するには良いきっかけである。
ただし、そこに収まる保証はない。インフレはきわめて厄介な現象であるからだ。予想もできないし、抑制することは難しい。
文/エミン・ユルマズ