我々は喜んでテック富豪たちに服従している

これは今までになかったことだ。GEやエクソンモービルやゼネラルモーターズや、そのほかのコングロマリットで働く人たちは、企業の収益の約8割を給与や賃金として受け取っている。規模の小さな会社なら、その割合はさらに大きくなる。

一方、巨大テック企業の労働者が受け取る賃金は、企業収益のわずか1パーセントにも満たない。なぜなら、賃金労働者が果たす役割は、巨大テック企業が拠って立つ仕事のほんの一部にすぎないからだ。仕事の大部分は、数十億もの人々が無料で行っている。

もちろん、私たちのほとんどがそうすることをみずから選んでいるわけだし、それを楽しんでさえいる。自分の意見を世間に知らせたり、仲間やコミュニティに自分のプライベートな生活を事細かに伝えたりすることで、ひねくれた承認欲求が満たされるからだ。

ユーザーはどのように自身と承認欲求と向き合っていけばいいのか
ユーザーはどのように自身と承認欲求と向き合っていけばいいのか
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かつての封建制の時代にも、先祖代々の土地で汗水流して働く農奴が辛酸を嘗めていたことは間違いない。現実は厳しかった。収穫時期の終わりには地主が執行官を送りつけ、収穫のほとんどを持ち去り、農奴には1ペニーも支払わない。

それと同じように、私たち数十億の消費者は、無意識のうちにクラウド資本を生産している。私たちがそれを自主的に、むしろ嬉々としてやっているからといって、これが不払い労働による生産であることには変わりない。クラウド農奴は、日々の自主的な勤労によって、カリフォルニアや上海に住むごく少数の億万長者を潤しているのだ。ここが肝心なところだ。

デジタル革命は、賃金労働者をクラウド・プロレタリアートに変えようとしているのかもしれない。そしてクラウド・プロレタリアートは目に見えないアルゴリズム上司の圧力のもとで、ますます不安定でストレスに満ちた生活を送るようになる。

デジタル革命は、ドン・ドレイパーをアレクサのようなエレガントな卓上機器の中に隠された行動誘導アルゴリズムへと置き換えた。しかしながら、クラウド資本に関する最も重要な事実はそこではない。

クラウド資本が成し遂げた一番の偉業といえば、資本の自己再生産の方法に革命を起こしたことである。クラウド資本が人類にもたらした真の革命とは、何十億もの人々を、無償で労働をするクラウド農奴へと変貌させたことだ。

現代の農奴は、クラウド資本の再生産をその所有者の利益のために嬉々として行っているのだ。

#4 に続く

文/ヤニス・バルファキス 写真/shutterstock

テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
ヤニス・バルファキス、斎藤幸平、関 美和
テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
2025/2/26
1,980円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4087370089

《各界から絶賛の声、続々!》

世界はGAFAMの食い物にされる。
これは21世紀の『資本論』だ。
――斎藤幸平氏(経済思想家・東京大学准教授)

テクノロジーの発展がもたらす身分制社会。
その恐ろしさを教えてくれる名著。
――佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)

これは冗談でも比喩でもない!
資本主義はすでに死に、私たちは皆、農奴になっていた!
――大澤真幸氏(社会学者)

私たちがプレイしている「世界ゲーム」の仕組みを、
これほど明快に説明している本はない。
――山口周氏(独立研究者・著作家)

資本主義はすでに終焉を迎え、グーグルやアップルなどの巨大テック企業が人々を支配する「テクノ封建制」が始まっている!テック企業はデジタル空間の「領主」となり、「農奴」と化した私たちユーザーから「レント(地代・使用料)」を搾り取っているのだ。このあまりにも不公平なシステムを打ち破る鍵はどこにあるのか?
異端の経済学者が社会の変質を看破した、世界的大ベストセラー。

目次
第一章 ヘシオドスのぼやき
第二章 資本主義のメタモルフォーゼ
第三章 クラウド資本
第四章 クラウド領主の登場と利潤の終焉
第五章 ひとことで言い表すと?
第六章 新たな冷戦――テクノ封建制のグローバルなインパクト
第七章 テクノ封建制からの脱却
解説 日本はデジタル植民地になる(斎藤幸平)

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