人間への共感力を持たない冷酷なAI上司たち

人間が半自動化された生産ラインの一部として、機械にはできない仕事をしている限り、人間の仕事のペースは機械に支配される。そして機械は一緒に働く人間の生産的なエネルギーを、最後の一滴まで搾り取ることを優先する。

それがどうした、と父さんは言うかもしれないね。今どきの工場や倉庫では、アルゴリズムが労働者の仕事のペースを決めているかもしれないけれど、それは単にかつての歯車や車輪、チェーンホイールやベルトコンベアの代わりをしているだけじゃないか、と。その会社のニューラル・ネットワークとワイヤレスで接続された、プラグインデバイス上で作動するアルゴリズムによって管理されていることに、なにか問題があるのか、と。

従来の工場で働く機械工のイメージ
従来の工場で働く機械工のイメージ

クラウド・プロレタリアート(クラウドベースのアルゴリズムによって肉体の限界まで働かされる賃金労働者を僕はそう呼んでいる)は職場で苦しんでいる。でもそれは、前の世代のプロレタリア階級なら誰しも同じように感じていたことだろう、って。

たとえばアマゾンのメカニカルタークはいい例だ。メカニカルタークのことを、同社は「個人と企業が、分散された労働力にオンライン上でタスクを外注できるようにする、クラウドソーシングのマーケットプレイス」と説明している。

でも実態をありのままに伝えるなら、これは労働者がバーチャルに出来高払いの低賃金で働く、クラウドベースの搾取工場だ。ここで起きているのは、カール・マルクスが『資本論』第1巻の第21章で完全に分析した通りのことそのものだ。

「出来高払いは……最も実りある賃金削減の原資であり、資本家がはたらく詐欺のネタとなる」。マルクスはこうも付け加えた。「不安定な出来高払いは、資本家にとっての生産性追求にはもってこいのシステムだ」。いや、まさにその通り。

アルゴリズムはすでに輸送、配送、倉庫保管業の管理者になり代わった。そのアルゴリズムのもとで働かされている労働者は、現代の悪夢の中にいると感じているはずだ。人間への共感を欠くばかりか、そもそも共感能力のないバーチャルな存在が、人間の反応速度などお構いなしに決めた速度で、自分たちに仕事を割り振ってくるのだから。

人間味のない人物でさえも感じる一抹の罪悪感などとは無縁のアルゴリズム上司は、勝手に労働者の賃金労働時間を減らし、正気を失うレベルまで仕事のペースを上げ、それについてこられないと「非効率」を理由に労働者を路上に放り出す。

アルゴリズムに搾取された労働者はカフカの世界のような不条理の循環に投げ込まれ、なぜ解雇されたかを説明してくれる人間と話すこともできない。

そう、つまりクラウド資本は職場を映画『メトロポリス』の地下工場のような「アルゴ・ホール」に変えるのだ。そこでは、人間の労働者はクラウド・プロレタリアートに成り下がる。

とはいえ、クラウド・プロレタリアートの苦しみは、『モダン・タイムス』で描かれたような伝統的な労働者階級にとって、まったく意外なものではない。つまりクラウド資本は、伝統的な地上の物理的資本が世界中の工場や倉庫やそのほかの昔ながらの職場でやってきたのと同じことを、少しばかり効率よく行っているだけだ。

だが、伝統的な職場の外では、私たちが当たり前だと思っていたあらゆるものを、クラウド資本は破壊しつつある。