国が動かないのであれば地方から動いていく

――現在鈴木さんがお住まいの高知県土佐郡土佐町では、町議会議員を務めておられます。地方議員として、直近ではどのような取り組みをされているのでしょうか?

給特法に関しては国会での審議に委ねる他ないのですが、教員の働き方改革に関しては、地方議員としてでできることをやっています。

昨年(2024年)の12月に開かれた土佐町議会では、夏休み前に依頼していたふたつの調査結果を教育長に問いました。ひとつは、「土佐町の教員は、勤務時間内に翌日の授業の準備をする時間が取れているのか」。もうひとつは、「土佐町の教員は、労働基準法で定められた45分間の休憩時間を勤務時間内に取れているのか」。

いずれも「取れていない」という答弁であり、しかもそれが近隣3町村の教育長の共通認識として提示されました。「ということは、労働基準法違反の状態ですか?」と尋ねたところ、「そういうことになる」という答弁が返ってきました。

これ、すごく重大な答弁です。自治体の教育長、つまり教育行政のトップが、自分たちの地域の学校の教員が労働基準法違反の状態で働いていることを認めたのです。教育長としては逃げようがないんですよね。議会では虚偽答弁もできないし、もうみんなわかりきっていることだけれども、正式に認めざるを得ない。

当然、こうした状況は土佐町に限ったことではありません。そして、教員の労働環境は、子どもたちの学習環境です。だとしたら、教育委員会と議会とが一緒になって、教員が無理なく働けるだけの人と予算措置を取るよう、各地で国に対して声を上げていくしかないと思うんですよね。

土佐町が含まれる高知県嶺北という地域では、今後、土佐町以外の3町村(本山町・大豊町・大川村)でも同様の質問が議会で提出されます。さらに他の自治体でも出されるということを聞いています。

なので、全国で同時多発的に「この地域の教員は労働基準法違反の状態で働かされている」ということが議事録に、つまり公文書に残るのであれば、それは今後、国会質疑のデータにもなりますし、教員による集団訴訟の重要な根拠にもなります。

イヤでも教員の残業代を払いたくない文科省 vs 教員…教職員の働き方改革の最優先事項は「教員の時間外勤務を、労働基準法上の労働時間として認めること」_3
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要するに、法律違反の状態があると認めたからには、それを放置しておくことは教育長の監督責任になりますので、放置はできないことになるわけです。

実際、直近の土佐町議会では、この問題を再度、教育長に追及しました。効果はてきめんでした。土佐町議会では、これまで再三にわたり、国が定める標準授業時数を大幅に上回る、いわゆる「余剰時数」の削減を求めてきました。これまでも徐々に削減されてはいましたが、今年度からそれが「0」になったのです。これにより、教員の空き時間が増え、授業の準備なにあてられるようになりました。

国が動いてくれないんだったら、まずは地方から動かすしかないよね、という気持ちでアクションを取っているわけです。

写真/shutterstock

鈴木大裕さん講演会

イヤでも教員の残業代を払いたくない文科省 vs 教員…教職員の働き方改革の最優先事項は「教員の時間外勤務を、労働基準法上の労働時間として認めること」_4

日時:2025年5月17日(土)

場所:大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)特別会議室

詳細:https://note.com/ryushokanbook/n/neb853a458289

崩壊する日本の公教育
鈴木大裕
崩壊する日本の公教育
2024年10月17日発売
1,100円(税込)
新書判/288ページ
ISBN: 978-4-08-721335-5
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その結果、教育現場は萎縮し、教育のマニュアル化と公教育の市場化が進んだ。
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日本の教育はこの先どうなってしまうのか? その答えは、米国の歴史にある。
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