「野菜農家は打たれ強くならざるを得ない」
同じ茨城県内の八代町でキャベツや白菜などを栽培する中山ファームの中山康弘さんは言う。
「野菜泥棒はそもそも現行犯逮捕するのが難しい。被害届を出して事情聴取などに時間を取られるわりにほぼ捕まらないですから、そもそも届けを出すことさえあきらめてしまう。
うちも10年ほど前に約2500個ものキャベツをごそっとやられたことがあった。その時も“今日よりも明日”、“盗まれた野菜より、今育ててる野菜やこれからの野菜のことを”という精神で気持ちを切り替えてやってきました」
中山さんは「野菜農家は打たれ強くならざるを得ない」と言う。
「2015年に鬼怒川が決壊した際も、収穫前のキャベツが全滅したことがある。その2年後にもやはり川の決壊で全滅しました。我々は天気が相手なので、起きたことを悔やんでいては、まったくやっていけないのです」
また、野菜泥棒においても、数百、数千もの規模までいかずとも、2、3個のキャベツを盗まれるのは日常茶飯事のようだ。中山さんは言う。
「夜、畑の見回りに行った際に、お爺さんが包丁を持ってキャベツを収穫(窃盗)してる最中でした。“何やってるの”と声をかけると、“ここの家の人が持って行っていいと言うから収穫してる”と言うので“俺がここの家の者だけど”と言ったらキャベツを放り投げて走り去っていきました」
このように高齢者による盗難は意外と多いようだ。
「朝にお婆さんがキャベツを2個持ってたので、やはり同じように“何やってるの”と声かけたら“中山さんから持って行っていいと言われた”と言うので“俺が中山だけど”と言ったら驚いた顔をしていた。
その後には、“そんなの、泥棒と同じじゃん”と言うと“泥棒じゃねえ! そんなことやんねえ!”と逆ギレされてしまって……。何も言う気が起きなくなり、お婆さんにはそのままキャベツを持ち帰らせました」
昨年12月に被害に遭った前出の岩崎さんも、「自宅用の2、3個ならまだ目をつぶるけど、100個も200個も盗んで売りつけるのはどうなんだろうか」と言う。
「今回は特に収穫をしようとした前日の被害だったので、本当に悔しい。おそらく盗んだキャベツは、乱暴に切って、トラックに投げ入れてるはずなのでそのまま売りには出せないから、加工工場などに売ってるんでしょう。
そろそろ千葉県産の春キャベツの収穫も始まるでしょうし、どうか同じ被害に遭うことがないよう願うばかりです」(前出の岩崎さん)
千葉県銚子市といえば春キャベツの生産量は日本一を誇る。銚子市の農業組合にも問い合わせた。
「銚子の春キャベツは新キャベツとも呼ばれ、葉は柔らかく、とても甘みがあります。早い農家さんはすでに収穫が始まっていて、3月いっぱいくらいまで続きます。
現在のところ、盗難被害に遭ったと言う知らせは受けていません。農家さんは常日頃から気候に左右され、大変なお仕事をされています。どうか盗難だけはやめてほしいです」
警察は農家に対し防犯カメラの設置や定期的な見回りをと呼びかけているが、カメラの設置もタダではないし、見回りだって手間やコストがかかるものだ。
農家の方にこれ以上負担がいかないよう、こういった被害が起こらないことを願うばかりだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 サムネイル/Shutterstock