ファンの間では「妊婦の緊急搬送」も問題に?

さて、東京ディズニーリゾートと緊急搬送にまつわる話題として、ファンの間で“マタ旅(マタニティ旅行)”という言葉が知られていることをご存じだろうか。

この“マタ旅”とは「妊娠中に旅行や遠出をすること」を意味するもので、ディズニー好き界隈では2010年代前半から話題を集め始めた。

妊婦が「出産するとしばらく来られなくなるから」という理由でディズニーリゾートに遊びに来るのである。

問題視されるようになったきっかけは、順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科、社会保険船橋中央病院周産期母子医療センターの医師らが、日本周産期・新生児医学会で2010年に発表した『妊娠中の旅行に関する危険性:東京近郊の巨大テーマパークからの産科緊急症例に関する検討より』という論文だ。

論文では2007年1月1日から2009年12月31日までの3年間を対象に、東京ディズニーリゾートや周辺施設から同病院を緊急受診することになった患者数や症例などが調査されており、その期間での総患者数は86人であったとしている。

取材中、舞浜地区にて救急車の出動に遭遇(撮影/集英社オンライン)
取材中、舞浜地区にて救急車の出動に遭遇(撮影/集英社オンライン)
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診断例の中には、切迫流産や流産なども報告されており、これらのデータは妊婦にとって“マタ旅”がリスクを伴う可能性があることを示している。

このような背景を踏まえ、浦安市内の複数の医療機関に聞き取りを行った。

「年に2〜3件ほど、東京ディズニーリゾートから妊婦の方が運ばれてくることがあるようです。要請はパーク内の救護室からですね。舞浜地区に出張所が建設されれば、緊急時の対応がより迅速になり、適切な措置が取れるようになると思います。受け入れ体制も変わってくるのかな、と」(浦安市内の病院関係者)

「少なくとも私が勤務してからは、うちのクリニックに妊婦の方がディズニーから搬送されてきた事例はありません。ただ、他の産婦人科などでは年に数件はあると聞いています」(浦安市内のレディースクリニックのスタッフ)

「マタ旅」中の急変は、妊婦健診を受けていない医療機関で対応することになるため、妊婦にとっても医療機関にとっても望ましくない事態だ。適切な医療が受けられない可能性もある。

母体や胎児を危険にさらし、旅先にある医療機関にも負担をかける行為であることを認識した方が良いだろう。

病気やケガの救急搬送に話を戻せば、近年、日本の夏は“酷暑”と呼ばれるほどの厳しい暑さが続いており、「災害級の暑さ」という表現も一般的になっている。行楽シーズンでもある夏季の救急搬送がさらに増えることは想像に難くない。

また炎天下でなくとも、アトラクションの行列に長時間並んだり、広い園内を歩き回ったりすることで、体調を崩す来園者が出ることは十分想定される。

建設が始まる「消防署舞浜出張所(仮称)」は、こうした状況やニーズに応じた適切な措置だといえそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班