母から言われた「命がもったいない」
現在、イタリアのボッコーニ大学に在学中の岸谷だが、中学受験をして早稲田実業中学に進学するなど、エリート街道を歩んでいた。というのも、同校はよほど成績が悪くない限り、高校と大学には推薦という形で進学することができるからだ。
しかし、卒業後は付属の早稲田実業高校には進学せず、アメリカの高校に留学する。当時の選択を彼は「ドロップアウト」と表現する。
「僕は得たいものがあるから勉強して、得たいものがあるから努力する…。
つまり、自己実現のために必要な努力をやってきただけで、特別な野望があったり、真面目でやらなくてはいけないことをしっかりと遂行できるような人間ではありません。
ただ、『得たいものを得る』という能力が高かっただけなんです」
中学受験に合格したことで、『小児リウマチを克服して早稲田に入れたのはすごい』と周りに評価され、『特別な存在でありたい』という気持ちが満たされた。
合格したことで目標は達成されてしまい、その結果、入学後は早稲田でやりたいこともなくなり、堕落してしまった。そもそも、同校の校風が自身には合わなかったとすら振り返る。
「僕は『勉強する人はバカだ』とすら思っていました。黙っていても早稲田大学に入れるため、『なんで、わざわざ労力をかけて勉強するの?』と感じてしまったんです。
そのような考えだったため、僕は勉強せず、成績は下から数えたほうが早いほど悪く、高校では確実に留年するという、どうしようもなくダラけた状況でした。
もう、人生のリカバリーができなかったのです。そんなとき、母親から『このままだと命がもったいない』と言われて一念発起しました。その時初めて堕落していくことへの危機感を覚えたんです」
しかし、3年間何もしてこなかったため、新たに偏差値の高い高校を受け直すことは不可能だ。ただ、学校のレベルが下がってしまうのも避けたい。
そこで、国内はあきらめ、アメリカの高校に留学して「海外逃亡」をすることに。さすがに、このときばかりは実家の太さに感謝したと話す。
「僕は日本が好きすぎで、家族旅行でイギリスに行くときも『僕は残る』というくらい海外に興味はありませんでした。
そこから、まずは英語力をつけるためにフィリピンに語学留学をするのですが、その辺で野犬がうろうろしている環境に衝撃を受けます。
さらに、同じく語学留学に来ている日本人の大学生や社会人たちから、大きく影響を受けて毎日脳汁が溢れていました」