「あの曲を超えようとは、もう思っていない」
その4年後、コロナ禍が続いていた2021年頃から、また「深夜高速」にスポットが当たるようになる。11月に、岡崎体育が主演するSMBCグループの企業コマーシャルに、彼がカバーして歌う形で「深夜高速」が起用されたのだ。
この「出演俳優が歌うSMBCグループのCM」はシリーズ化し、三浦透子、岸井ゆきのと続き、今年2024年には、ラグビー日本代表の選手たちが出演し、フラカンが新録した「深夜高速」が流れるバージョンと、岡崎体育と古川琴音が出演し、古川琴音が歌うバージョンが作られた。
また、2022年から年に1回のペースで、下北沢の小劇場B1で「それぞれの深夜高速」というイベントも行われている。この曲に強い思い入れを持つ、人気お笑い芸人が“生きててよかったと思える夜を探し出す話”を披露した後に、真剣に「深夜高速」をフルで熱唱するというもので、圭介は「特別審査員」として毎年招かれている。
そのほかにも、TEAM-ODACという劇団が、フラワーカンパニーズをモデルで「原案」とした『僕らの深夜高速』という演劇を、2014年に上演。2015年と2021年にも、再演・再々演を行っている。
というふうに、同業のミュージシャンたちにカバーされる以外にも、演劇やお笑いなど、他ジャンルのクリエイターにも影響を与えているのも、「深夜高速」の特徴と言える。圭介は「SMBCのCM以来、岡崎体育くんの歌だと思っている人もいるみたいです」と笑う。
「もちろんカバーしてもらえるのもうれしいし、CMなどで使ってもらえるのもうれしい。他ジャンルの……ヒップホップの人とか、2.5次元の人とか、VTuberの人とかからも、いっぱいカバーの申請とかもいただいてるみたいで。
カバーに関しては基本的にはお断りすることはほぼなく、どうぞよろしくお願いしますっていう感じです。
そういうお話をもらうことで、メンバーはそれほど一喜一憂はしてないですね。ただ、今もそうやってカバーしてくれたり取り上げてくれるってことは、この曲になにかがあったんだろうなあと。作ったときはよくわからなかったけど、すごくリアリティがあったってことなのかな、と。
あの曲は当時のバンドのこと、自分のことを、そのまま歌ってるだけで……僕らの他の曲もみんなそうなんだけど、この曲は特にわかりやすかった。響いた、ってことなのかなあと思います」
バンドにとって、このような圧倒的な曲の存在は、「ライブで必ずあの曲をやらなければいけない」という制約になったり、「あれを超える曲ができない」というプレッシャーになったりすることもある。フラカンにもそういう時期はあったそうだが、それはもう乗り越えた、と圭介は言う。
「新曲を作るときに、あの曲を超えようとかは、もう思っていないし。あと、不思議なもので、正直歌いたくないなと思ってた時期もあったけど、最近は、まったくないですね。
その当時のことを思い出しながら歌う、とかじゃなくて、今の自分のリアリティとして歌っているので、改めて今届くのかな、というか。
年をとったからなのか、50歳をすぎてからの方が、死ぬということに、すごくリアリティも出てきている。
40代は『この曲はもういいでしょう』って思う時期もあったんだけど、今は『いや、歌ったほうがいいでしょう!』みたいな感じ。今の『深夜高速』は、自分で言うのもなんだけど、ヤバいんじゃないかなと思います。気持ちがすごくのっかっているから」